東京大学と米University of Central Floridaは,高強度赤外レーザーから発生させた数百アト秒の時間幅を持つ波長3nmの軟X線パルスを用いて,サブフェムト秒領域の時間スケールで起こる亜酸化窒素分子内の電子ダイナミクスの観測に成功した(ニュースリリース)。
東大ではこれまでに,コヒーレントなアト秒パルス光である高次高調波の波長域を極端紫外(波長6~120nm)から軟X線領域(波長0.5~6nm)へと拡大し,波長3nmの軟X線を用いたアト秒ポンプ・プローブ分光を実現している。
軟X線を用いることにより,各元素の「吸収端」と呼ばれる,吸収が急峻に増大する波長領域での実験が可能となり,物質の性質を特徴づける電子状態を光学的に観測できる。また,アト秒の時間領域は,原子・分子内部における電子の動的過程を特徴づける時間スケールであり,分子内での電子ダイナミクスを観測できる。
研究では,軟X線領域でのアト秒ポンプ・プローブ分光において観測された吸収スペクトルの超高速振動の起源を,実験結果と精密な理論計算を対応させることにより明らかにした。実験では,亜酸化窒素(N2O)分子が強い光の電場でイオン化する際に,窒素の吸収端付近の吸収スペクトルが光電場の半周期(約2.7フェムト秒)で振動する様子が観測された。
精密な理論計算との比較により,その起源が,アト秒軟X線パルスによって生成された内核励起状態のN2O分子が,強い赤外パルスの光電場によってトンネルイオン化するためであることを示した。
従来の高強度レーザーパルスと軟X線パルスを用いた「ポンプ・プローブ分光」では,「一方がポンプ光,他方がプローブ光」と考えることが一般的。それに対しこの実験では,軟X線アト秒パルスによって内核励起された分子が,レーザーパルスによってイオン化するという二段階の過程が,内核励起に用いられた軟X線アト秒パルスの吸収スペクトルに反映されていることを明らかにした。
この結果は,軟X線アト秒パルスを用いた軟X線過渡吸収分光において,きわめて短時間しか存在しない内核励起状態の電子過程を直接的に観測できることを示したものであり,軟X線アト秒パルスを用いた過渡吸収分光の新しい可能性を示したものだという。
研究グループは,この成果が今後,窒素が関連する光触媒反応等,応用上重要な光誘起電子移動過程の素過程の理解に寄与するほか,さらにアト秒軟X線パルスの波長を短くすることにより,より多くの元素の吸収端をカバーし,分子構造の変化も観測可能になるとしている。