東京大学,東北大学,米カリフォルニア工科大学,独マックス・プランク固体研究所は,高品質酸化亜鉛を用いることで,電気的な反発が強い電子集団の本質的な相図を解明することに成功した(ニュースリリース)。
多数の原子から成る物質は温度や圧力などの外部環境によって気体・液体・固体と変化し,その関係を示す「相図」は物質を特徴づける上で最も基本的な情報となる。
同様に電子の集団に対しても相図を作ることは可能だが,物質と異なり,電子の集団を物質中から取り出すことはできないため,これまでは電子の散乱が極めて少ない高純度の化合物半導体であるヒ化ガリウム中の電子が調べられてきた。
特に,電子の相図を決定する上で最も重要な要素は,電子は原子と違いマイナスに帯電し互いに反発する影響を考慮することだが,電気的反発の影響が強くなる希薄密度の電子を作り出すことは,ヒ化ガリウムでは電子散乱が大きくなり,不可能だった。
研究グループは,代表的な酸化物半導体である酸化亜鉛を高品質化すると,電子の反発の影響が顕著になる希薄な電子密度になるにつれ,電子の散乱はむしろ低く抑えられることを2015年に発表している。
今回,この高品質酸化亜鉛を絶対零度付近まで冷却することにより,希薄な電子の相図を実験的に見出すことを試みた。物質の相図の場合,外部環境として温度と圧力を変化させることが慣例となっているが,物質中の電子の場合,これらに加えて電子密度や磁場が重要なパラメータとなる。さらに,物性研究では温度が絶対零度の状態が最も電子の本質を表すと考えられている。
研究では,絶対零度より約 0.01℃だけ高い温度において,高品質酸化亜鉛中の電子密度と外部の磁場を変化させて電気抵抗を精密に測定することにより電子の相図を決定した。電子の場合は気体・液体・固体の相に加え,磁気の性質の最小単位となるスピンを持つため,磁気の状態も含めた相図となる。
例えば,すべての電子のスピンが同じ方向を向いている永久磁石と同様の「強磁性」と呼ばれる磁気状態や,隣り合う電子のスピンが反対を向く「反強磁性」,各々の電子のスピンがばらばらな「常磁性」などがある。
今回の実験結果によれば,電気抵抗の状態は主に低・中・高の3状態があり,理論と比較するとそれぞれ,「常磁性液体」,「強磁性液体」,「強磁性固体」に対応することが明らかとなった。このような希薄な電子の詳細な相図を実験的に決定する研究は,高品質酸化亜鉛を用いた極低温計測によって今回初めて可能となったという。
研究グループは,得られた電子の相図は,物質によらず純粋に電子の集団的性質を反映しており,今後の電子論発展の基礎となるものだとしている。