京都大学,和歌山県立医科大学,大阪大学,理化学研究所,高輝度光科学研究センターは,SACLAのX線自由電子レーザー(XFEL)を用いたシリアルフェムト秒構造解析(SFX)により,様々ながんにおける多剤耐性の原因であり,医学研究において重要なABCトランスポーターの立体構造を2.22Åの高分解能で決定することに成功した(ニュースリリース)。
膜タンパク質の結晶を作る際,脂質キュービック相(LCP)法と,主に可溶性タンパク質で用いられている蒸気拡散法が用いられる。
今回用いたABCB1のホモログ4(同一の祖先種に由来する遺伝子で,類似関係にある遺伝子)であるCmABCB1は,すでに蒸気拡散法により結晶が得られていたが,この結晶をSACLAに供しても高い分解能を示すX線回折像は得られなかった。
一方,LCP法は生体膜に深く埋め込まれた膜タンパク質の結晶化に優れた方法であっても適用範囲が限られており,ABCトランスポーターのように可溶性領域が膜外に大きくはみ出している構造の膜タンパク質にはほとんど用いられてこなかった。
そこで,LCPの調製方法を工夫し,通常のLCP法で用いる脂質である9.9MAG(モノオレイン)ではなく,7.7MAG というアシル鎖が短い脂質を使用したときに,より良好な微結晶(長辺 10μm程度)が得られることを発見した。ただし,この結晶はスポンジ相という粘性が低い相で得られたため,測定のために結晶懸濁液の粘性を上げる必要があった。
SACLAから放たれるX線は非常に明るく,結晶をすぐに損傷させてしまう。そのため,1つの結晶に対して1枚のX線回折像しか撮影できない。そこで,溶液に懸濁させた結晶をインジェクターから流し出し,X線を順次照射していくシリアルフェムト秒結晶構造解析(SFX)で測定を行なった。
23種類の増粘剤を試したところ,Hydroxypropyl methylcellulose(HPMC)が適していることが分かり,最終的には17.5% HPMCを加えて測定した際に2.22Å分解能の外向き型の結晶構造を得た。
ABCトランスポーターは開閉運動することで異物を排出する。CmABCB1は同一分子を用いて外向き型と内向き型の両方の立体構造を高分解能で解析できているが,その途中の細かな動きは捉えられていなかった。
研究グループは今後,分子認識と,排出の詳細な機構が明らかになれば,特定の異物のみを排出するようなABCトランスポーターの開発へ進んでいくと予想している。