東芝は,透過型亜酸化銅(Cu2O)太陽電池において,発電層の不純物を抑制することで,世界最高の発電効率8.4%を達成した(ニュースリリース)。
III-V族太陽電池を積層したタンデム型太陽電池は,30%台の発電効率が報告されているが,製造コストがSi単体の太陽電池と比べて数百倍~数千倍と高いという問題があった。
透過型Cu2O太陽電池は,銅と酸素の化合物であるCu2Oを主な材料とし,III-V族半導体と比べて,基板,原材料,製造装置がいずれも安価で,大幅な低コスト化が期待できる。
短波長光を吸収して発電し,長波長光を透過するので,長波長光で発電するSi太陽電池をボトムセルに用いることで,限られた設置面積でも必要な電力を供給できる。
Cu2O発電層は,大面積に拡張可能な反応性スパッタ法を用いて薄膜形成するが,Cu2Oの半導体結晶としての性質により,結晶中には酸化銅(CuO)や銅(Cu)といった不純物が生成されやすく,それらが発電効率と光透過性の両方の低下原因になっていた。
同社は,X線回折法を用いて,Cu2O発電層に含まれるごく微量のCuOやCuを直接検出することで不純物の量を精密に数値化し,2種類の不純物が最小化する成膜プロセス条件を特定した。
今般開発した透過型Cu2Oをトップセルに,25%の高効率Si太陽電池をボトムセルに適用したCu2O/Siタンデム型太陽電池の発電効率を見積もったところ,発電効率27.4%と試算された。これは,Si太陽電池の世界最高効率26.7%を上回る発電効率となる。
さらに,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の試算方法を参考に,Cu2O/Siタンデム型太陽電池をEVに搭載した場合の航続距離を簡易的に試算した。
Cu2O/Siタンデム型太陽電池の発電効率を30%,車載設置面積を3.33m2と仮定したところ,充電なしの1日の航続距離は約40kmと試算された。今回の透過型Cu2Oのトップセルで試算した発電効率27.4%では,充電なしの1日の航続距離は約35kmと試算された。
同社は今後,発電効率である30%以上のCu2O/Siタンデム型太陽電池に必要な,Cu2Oトップセルの10%の発電効率を目指す。また,東芝エネルギーシステムズと共同で,量産タイプのSi太陽電池と同じサイズの,大型Cu2O太陽電池の開発を開始した。2023年度を目標に,サンプルの供給を開始し,2025年度を目標に実用サイズのCu2O/Siタンデム型太陽電池の製造技術の完成を目指すとしている。