東大ら,超高温・大面積ナノ薄膜装置を開発

東京大学,産業技術総合研究所,物質・材料研究機構,協和界面科学は,100℃を超える高温でも液体のイオン液体を用いたウエットプロセスである超高温Langmuir-Blodgett法(LB法)及び,自動で薄膜製造が可能な汎用的な製造装置を開発し,この手法を200℃付近の超高温プロセスで電子輸送性が向上する有機半導体分子に適用した結果,高い配向性を有するナノ薄膜の大面積製造に成功した(ニュースリリース)。

水面に油を垂らすのと同様に,機能性分子を水面上に展開することでナノメートルスケールの薄膜を形成することができ,基板に写し取る(転写)ことで,固体状態の機能性薄膜を得ることができる。この手法は,Langmuir-Blodgett法として知られており,表面化学のアプローチを利用した高品質なナノ薄膜製造手法として広く利用されている。

しかしながら,室温よりも高い温度では,表面で揮発する水分子の影響を無視できないため,機能性分子を展開する液体は「水」に限定されており,LB法の適用可能な温度領域は室温付近に限定されていた。

一方,機能性分子の中には高温で理想的な分子集合体を形成する材料も多く存在し,高温でのLB法による高品質な薄膜製造が期待されていた。

研究グループは,100℃を超える高温でも液体状態を保つ「イオン液体」に着目し,超高温LBプロセスを開発した。イオン液体は,有機系の陽イオンと陰イオンから構成された塩で,高温でも液体であり,蒸気圧はほぼゼロという特徴を有する。イオン液体上に機能性分子を展開し,薄膜化することで超高温LBプロセスが可能となる。

汎用的なLB膜製造装置では,薄膜形成及び転写工程の自動化も可能だが,超高温プロセスに耐えられる仕様ではない。研究グループは,部材の見直しや,装置の温度ムラや温度計測系などを検討し,200℃付近の超高温まで耐えられる汎用的な高温LB装置の開発に成功した。

研究グループは,開発した超高温LB法を用いて,有機半導体分子の超高温成膜にも取り組んだ。電子デバイスとして高い性能を示す有機半導体分子の多くは,高い結晶性を有し,有機半導体分子を精緻に配列させるためには,比較的高い温度で薄膜を製造することが効果的となる。

今回,200℃付近の超高温プロセスを必要とする高分子半導体にこの高温LB法を適用した結果,1cm2以上の大面積にわたり均質なナノ薄膜を形成することに成功し,高い結晶性を得ることができた。

研究グループは,この成果により分子エレクトロニクスやバイオエレクトロニクスへの応用が加速することが期待されるとしている。

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