基礎生物学研究所と東京大学は,光照射により細胞の出す力を弱める新たなツール(OptoMYPT)を開発し,これを用いてカエル胚の細胞間ではたらく力や,培養細胞における細胞質分裂中の力を操作できることを示した(ニュースリリース)。
アクチンとミオシンは,細胞遊走や細胞分裂,上皮組織の折れ曲がりなど,様々な運動の原動力を担う細胞骨格タンパク質として知られている。
力と変形の関係を調べるため,これまでの研究ではアクチンやミオシンに関連する遺伝子を破壊したり,阻害剤を添加して力を弱めるという方法が取られてきたが,これらの方法は細胞や組織全体に作用し,細胞内の特定の部分のみで力を操作することは難しかった。そこで研究では光遺伝学を応用し,細胞骨格の出す力を弱めるような新たなツールの開発を目指した。
まず,ミオシンの不活性化に必要なMYPT1というタンパク質に注目。MYPT1はPP1cという酵素をミオシンの近くに引き寄せることでミオシンを不活性化する。そこで研究グループは,MYPT1のPP1c結合ドメイン(PP1BD)を利用して,元々細胞内にあるPP1cの局在を光で操作しようと考えた。
光による局在操作を行なうためにiLIDを用いた。このツールは,青色光を照射するとiLIDとSspBと呼ばれるタンパク質が結合する。そこで,iLIDを予め細胞膜に局在させておき,青色光照射によりSspBに連結されたPP1BDと元々細胞内にあるPP1cを膜移行させることで,細胞膜近くのミオシンを不活性化できると考え,このツールをOptoMYPTと名付けた。
発生過程のカエル胚にOptoMYPTを導入し,青色光を照射する実験により,OptoMYPTは設計通り細胞の生み出す力を弱められることを確認した。また,OptoMYPTを細胞質分裂中の力の操作に応用し,局所的な力の摂動を与えることで,細胞表層で生じる力の適切な強さや対称性が細胞質分裂の正常な進行を支えていることを示すことができた。一方,OptoMYPTを用いても力を弱めることのできない細胞骨格の構造があることも分かってきており,今後はツールの改善に取り組むという。
研究グループは,この研究のような光を用いた力の操作技術を駆使することで,将来的にはアクチン細胞骨格の関与する様々な発生学的・細胞生物学的現象の理解や,人工臓器の自在なデザインなど,基礎研究から臨床応用まで多面的に貢献することが期待されるとしている。