阪大ら,発達障害関連遺伝子の視覚への影響を発見

大阪大学と専修大学は,自閉スペクトラム症や学習障害をはじめとした発達障害に関連する遺伝子の欠損により,網膜・視覚機能が異常を示すことを明らかにした(ニュースリリース)。

発達障害は,注意欠陥・多動性障害(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD),学習障害(LD)といった一群の精神・神経疾患として知られている。

発達障害がある子供や大人において,視覚や聴覚などの感覚の異常が高頻度に見られる症状として知られている。DSM-5というASDの診断基準に,「感覚過敏や感覚鈍麻,環境の感覚的側面に対する普通以上の関心」という感覚の異常が加えられている。しかしながら,発達障害に伴う感覚の異常の原因やメカニズムは良くわかっていない。

発達障害に関連する遺伝子CYFIP2に変異が認められる人においては一定の割合で視覚に異常が見られることが報告されている。研究グループは,Cyfip2を網膜において欠損させたマウス(Cyfip2 CKOマウス)の網膜・視覚機能を解析した。

このマウスにおいては網膜の層構造や細胞の構成に大きな違いは見られなかったが,トランスポーターやチャネルといった神経細胞の活動に関与する遺伝子群の網膜における発現が変化していた。

このことから,Cyfip2の欠損により網膜の電気生理学的な性質が変化しているのではないかと考え,微小多点電極を用いて網膜の出力細胞である神経節細胞の神経活動を計測したところ,Cyfip2が欠損した網膜においては,光に対して強く持続した応答を示す神経節細胞が増加していたという。

また,動く物体を追従する眼球運動を調べたところ,Cyfip2の欠損により個体レベルの視力に異常が生じることが明らかとなった。これらの結果から,人のCYFIP2遺伝子の変異と関連した視覚異常のメカニズムに対する知見が得られたとする。

この研究により,発達障害でしばしば見られる視覚の過敏や鈍麻が,網膜神経回路の機能的変化によって生じる可能性が示唆された。研究グループは,この成果は感覚器に着目した,発達障害に対する診断法や治療法の開発につながるものであり,発達障害や認知症を含む脳機能異常の研究において脳だけでなく感覚器にも着目するという,新たな研究の潮流を生むものだとしている。

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