慶應義塾大学の研究グループは,故障リスクが増大した光ネットワークにおいても,通信容量の期待値を保持できるという新しい光ネットワーク運用コンセプトの実験に成功した(ニュースリリース)。
同大は,耐障害性を向上させる複数経路を用いた通信容量割り当て技術(ECGR)および,伸縮自在性を備えた超並列光伝送ネットワークを使いこなすための次世代イーサネット技術(ダイナミックMAC)の研究開発を行なってきた。
ECGRとは,「複数の通信経路に対して通信可能時間と故障による通信不能時間を確率モデルに基づいて予測を行ない,動的に通信容量を割り当てる」光ネットワーク運用技術。ダイナミックMACは,並列伝送に用いる数100本の並列光伝送リンク(超多並列光伝送リンク)上で,使用する光伝送リンクの本数を動的に更新しながら運用継続を可能にすることで耐障害性の向上を実現する。
研究グループは,ECGRの基幹技術の一つである,故障予測に基づいた経路割り当てアルゴリズム,ECGRの考え方を計算リソース割り当てにも拡張したアクセスメトロ網を用いたエッジコンピューティング技術(AMec)の予測や通知に基づいた計算リソース割り当てによる仮想エッジコンピューティング技術を開発してきた。また,ダイナミックMACの基幹技術の一つとして,並列伝送時の複数経路での転送遅延差吸収制御技術,光伝送リンク故障に対する縮退運用制御技術の研究開発にも取り組んできた。
研究グループは,ECGRテストベッドとして,ECGRの考え方を適用した“模擬”光ネットワークを構築し,“模擬”特性情報や“模擬”装置情報を光ネットワーク制御プラットフォームに与えることで,機器の故障確率を経路計算・経路割当装置で行ない,所望の容量期待値を確保する並列伝送経路を模擬光ネットワーク上に構成できることを示した。
また,AMecテストベッドとして,ECGRの故障確率予測の考え方をエッジ計算機の資源予測に応用し,“模擬”光ネットワーク+“模擬”エッジ計算資源群での仮想エッジコンピューティング技術が実現可能であることを,分散処理型の顔認識アプリケーションを用いて示した。
さらに,ダイナミックMACエミュレータシステム間を,10m光ファイバ,10km光ファイバ,JGNを利用した往復60km経路からなる異経路を構成し,40Gb/sイーサネット機器間での通信が正常に行なわれること,一部の光ファイバを切断する模擬故障を発生させても,残りの経路を用いて通信が継続できることを示した。
研究グループは今後,二つの技術を統合した故障予測に基づいた自律的な耐障害性向上に向けた研究開発を進めるとしている。