早稲田大学と加国立研究機構は,アト秒レーザー光を用いた二次元アト秒測定法により,光のスペクトル位相と原子由来の位相とを分けて測定し,重なり合っていた電子波動関数を分離してイメージングすることに成功した(ニュースリリース)。
アト秒レーザー光で光電子の位相を測定するためには,複数のイオン化過程により生成した光電子の波動関数の干渉を利用する。
しかし,干渉により得られる光電子の「位相」は,①アト秒レーザー光のスペクトル位相と,原子に由来する位相とが重なっている,②さらに原子位相は,複数のイオン化の過程ごとに異なる角度分布を持つ電子の波動関数の位相が重なっている,という問題があり,これらの絡み合った位相を分離した測定が必要だった。
研究グループは,アト秒再衝突電子法と,アト秒レーザー光によるイオン化法とを組み合わせ,さらに「二次元アト秒測定法」を開発し,イオン化により放出された光電子の運動量分布を測定した。
アト秒レーザー光のスペクトル位相測定は,アト秒レーザー光の13次・14次・15次高調波と,赤外光による三つのイオン化過程の干渉を利用した。アト秒レーザー光のスペクトル位相は,これらの高調波の次数ごとに少しずつずれている。
まず,800nmのみでアト秒レーザー光を発生したときに対応する高調波の次数ごとの位相のずれを,「二次元アト秒測定法」とw-2w法を組み合わせて測定し,スペクトルのピークのシフトからスペクトル位相を見積もった。
また,今回の研究で用いた「800nmに400nmを加えた光でアト秒レーザー光を発生させた場合のスペクトル位相」は別の方法により,それぞれのイオン化過程ごとに重なっている電子の波(f-波・p-波などの部分波)の位相を分離して求めた。
次に,アト秒レーザー光の発生に使用する800nmと400nmの時間差を変化させ,アト秒レーザー光のスペクトル位相の変化量を見積もった。これらの値を差し引き,三つのイオン化過程ごとにf-波,p-波などの部分波の原子位相を得た。
得られた各部分波の原子位相の値と振幅から,三つのイオン化過程で生成した電子波動関数を個別に再構成し,(a)スペクトル位相と原子位相とをわけて,(b)f-波やp-波などの部分波の原子位相を求め,それらの値を用いて再構成することにより,(c)干渉の結果,重なっていた電子波動関数を個々のイオン化過程によって生成した波動関数に分離することができた。
研究グループはこの成果が,多電子系やレーザー電場中での量子計算方法の発展や改良のほか,アト秒領域での固体物理分野の研究や,光量子測定技術の発展につながるとしている。