香川大学の研究グループは,強誘電性と半導体としての性質を兼ね備えた液晶性強誘電半導体の光起電力効果についての新しい成果を発表した(ニュースリリース)。
既存の太陽電池では,p-n接合やショットキー接合界面での局所的な内部電界を利用して光キャリアの生成・輸送を行なっているため,開放電圧は半導体のバンドギャップや正負両電極の仕事関数の差に制限され,開放電圧(Voc)は最大でも0.8V程度となっている。
それに対して,BiFeO3などの強誘電性セラミックスにおいては,自発分極によってバルク全体に発生した電界を駆動力とするバルク光起電力効果が観測されており,バンドギャップを超える数Vの高電圧が発生している。
しかし,電気抵抗が高く,光吸収帯が紫外域に限定されるため,エネルギー変換効率は0.1%に満たない。また,薄膜作成に真空プロセスが必要。さらに,低温では大きな開放電圧が得られても,室温では低下するといった問題がある。
研究グループは,強誘電性液晶にπ電子共役系を組み込んだ「液晶性強誘電半導体」を合成し,強誘電相におけるバルク光起電力効果を見出している。自発分極によって内部電場がバルク全体に発生し,それによって光キャリアの生成・輸送が起こり,光起電力が発生する。そのため,原理的にはバンドギャップをはるかに超える大きな起電力が発生しうる。
通常の有機薄膜太陽電池と異なり,正負両電極は同じITO電極を使用でき,ポーリング電界を反転させることにより,電池の極性を反転させることもできるという。強誘電性セラミックスと異なり,コーティングや印刷法によるデバイス作製にも適しているとする。
今回の発表では,双極子モーメントの大きなフルオロ基やカルボニル基を導入した液晶性強誘電半導体1とフラーレン2の混合物に着目。高温側の常誘電性の液晶相において直流電圧を印加して強誘電相に冷却すると,分極した強誘電相が出現する。
強誘電相では,液晶相中でフラーレン誘導体が微結晶を形成する。液晶/フラーレン微結晶界面で効率的に光キャリアが生成するため,近紫外-青色域での外部量子収率は70%を超える。また,強誘電相での強い内部電界により,開放電圧は1.2Vに達する。
さらに,通常の太陽電池と異なり,正負両電極に化学的に安定なITO電極を使用でき,不安定なCa電極は不要。その他にも,強誘電相での高い誘電率が光キャリアの生成を促進している可能性,強誘電相での内部電界が電極面でのホール・電子注入障壁を低減している可能性が示唆されているとしている。