東芝は,ズームレンズによるズームアップやオートフォーカスで撮影した異なる条件の単眼カメラの画像のみから,実スケールの3次元計測ができる世界初のAI技術を開発した(ニュースリリース)。
社会インフラの長期的な安定稼働のため,インフラ保全の重要性が高まっている。
離れた場所から撮影した写真のみでサイズを計測することができれば,インフラ設備の点検を大きく効率化することができる。一方,現状のカメラや画像認識AI技術では,遠距離からの撮影によるサイズの計測は難しかった。
開発したAIは,従来必要としてきたジャイロセンサーやサイズに関する基準情報を必要とせず,事前に学習した撮影距離以外でも実スケールの3次元計測ができる。このAIは,いくつかの異なる位置で撮影した画像(多視点画像)から求めた相対的な奥行き情報に加えて,撮影画像に含まれるボケ情報を組み合わせることで,単眼カメラのみでサイズの絶対値を計測できる。
多視点画像から求められる奥行き情報は相対値であるため,従来は,絶対値を与えるジャイロセンサーや絶対値に関する情報を別途与える必要があった。また,ボケ情報からの大きさ計測は焦点距離が求められ,従来は事前学習が必要だった。
今回同社は,多視点画像から得られる奥行き情報と撮影画像のボケ情報を入力として,スケール情報と焦点距離を未知パラメータとする最適化問題を解くことで,撮影画像のみで大きさの絶対値が得られることを見出した。
このAIをひび割れ計測に適用したところ,スマートフォンのサイズ計測技術では誤差が大きく適用が困難な7m先のひび割れのサイズを高精度に計測できることを確認した。また屋外の11箇所で5~7m先の対象物のサイズを計測したところ,レンズを固定した理想条件においてサイズ誤差が2.5%であったのに対し,ズームレンズを使ったより難しい条件でもサイズ誤差が3.8%に抑えられていることを確認した。
この精度については,日本コンクリート工学会の定めるコンクリートのひび割れ補修指針に基づいた数値シミュレーションにより,高精度に補修の必要性を判別できることを確認した。さらに,2mm以下の細かいひびのサイズの絶対値の計測,および,従来は困難だった高所壁面のひび割れについても,妥当な計測結果が得られることを確認したという。
このAIは,インフラ点検だけでなく,製造や物流,医療など,カメラを使用してサイズ計測する様々な場面に応用できる。同社は今後,様々なカメラやレンズを用いて実証実験を進めるとともに計算処理の高速化を図り,早期の実用化を目指すとしている。