岡山大ら,窒素固定を行なう光合成反応機構を解明

岡山大学,東京都立大学,理化学研究所は,シアノバクテリアAnabaena sp. PCC 7120の窒素欠乏条件下で形成されるヘテロシストのタンパク質発現および励起エネルギー伝達機構の解明に成功した(ニュースリリース)。

光合成反応は,光化学系 I(PSI)・光化学系 II(PSII)と呼ばれる膜タンパク質複合体がその中心であり,光エネルギーを有用な化学エネルギーへと変換する役割を担う。

光合成原核生物であるシアノバクテリアには窒素固定するものがいる。Anabaena sp. PCC 7120は栄養細胞が数珠つなぎになった糸状性シアノバクテリアであり,窒素欠乏条件にさらされると栄養細胞の一部がヘテロシストと呼ばれる窒素固定を行なう細胞に分化する。

窒素固定酵素ニトロゲナーゼは酸素により瞬時に失活してしまうため,ヘテロシストでは光合成特性が変化し,酸素発生は停止するが,光エネルギーの利用は維持されている。これまでにヘテロシストで行われる光捕集を含む光合成特性が分析されてきたが,栄養細胞とヘテロシストが混ざった条件での分析である,ヘテロシスト特有の光合成特性の評価は充分でなかた。

今回研究グループは,シアノバクテリアAnabaena sp. PCC 7120の窒素欠乏条件において誘導されるヘテロシストを単離し,光合成特性の分析および励起エネルギー伝達機構の解明に成功した。

ヘテロシストからはPSII由来の酸素発生活性が検出されず,また,PSIIの電荷再結合由来の熱発光も検出されなかった。このことは,ヘテロシストに存在するPSIIが活性中心であるマンガンクラスターを持たないことを示唆する。また,タンパク質分析の結果,PSIIの二量体や単量体がヘテロシストに含まれないことが示された。

定常蛍光分析の結果,ヘテロシストからはPSII二量体や単量体由来の蛍光が検出されず,代わりにPSIIの分子集合中間体由来の蛍光が観測された。時間分解蛍光分光でもPSII二量体や単量体由来の蛍光は励起後の時間初期および後期でも検出されず,一方で,PSII中間体由来の蛍光が観測され,定常蛍光分析の結果と一致した。

このとき,PSIIからPSIへの励起エネルギー伝達がヘテロシストでは遮断されていたという。このことは,PSII→PSIへの励起エネルギー伝達にはPSII二量体や単量体が必要であることを示唆する。

研究グループは,これらの光捕集メカニズムが窒素欠乏という貧栄養下において光合成反応を上手く調節するための重要な機構かもしれず,植物に窒素固定を行なわせる技術開発につながるものだとしている。

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