東京大学の研究グループは,代表的な高活性Lewis酸触媒として知られるトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム錯体を化学修飾を施すことなく固定化する手法を開発した(ニュースリリース)。
連続フロー法によるキラルLewis酸触媒を用いるエナンチオ選択的炭素−炭素結合生成反応は,光学活性化合物の炭素骨格を形成する効率的な合成手法といえる。
特に触媒として不均一系触媒を用いることができれば,金属触媒の分離・再使用が実現できることから,理想的な合成手法となる。そのため,溶媒に可溶なキラルLewis酸触媒の高効率な固定化手法の開発が重要な研究課題であった。
研究ではシリカ表面に化学修飾を施した固体を担体として用い,キラルトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム錯体の非共有結合を介する固定化手法を開発した。
即ち,スカンジウム錯体の対アニオンとして機能するヘテロポリ酸を酸・塩基相互作用によりアミン修飾シリカ上に担持させることで,カチオン性スカンジウム錯体が静電相互作用を介して担体状に強固に固定化されることを見出した。
調整された触媒は電子顕微鏡による観察や窒素吸脱着等温線測定等により解析され,想定通り構造を有することが確認された。得られた不均一系触媒を筒状のカラムに充填することで触媒カートリッジを調製し,連続フロー条件下,イサチンとインドールを基質とするFriedel-Crafts反応の検討を行なった。
その結果,このスカンジウム触媒では対アニオンとして機能するヘテロポリ酸の構造が,触媒の活性・選択性に大きく影響することが明らかとなった。触媒構造を最適化した結果,触媒種の溶出を完全に抑制した上で,目的の付加体を最大98%収率,99%以上の光学純度で連続的に得ることに成功した。
この触媒系は幅広い基質一般性を有し,種々の置換基を有するイサチン・インドールに対し適用が可能。さらに,この固定化法では触媒の配位子のチューニングを容易に行なうことが可能であるため,高難易度である無保護インドールを基質とする反応では配位子の構造最適化を行なうことで,目的化合物が高選択的に得られる新たな配位子を見出した。
この手法の鍵は静電相互作用によるカチオン性金属錯体の固定化であることから,研究グループは今後,さまざまな金属触媒種に対しこの手法を適用することで,Lewis酸触媒に留まらず多種多様なキラル不均一系触媒による連続フローエナンチオ選択的反応の実現が期待されるとしている。