気象研究所,国立極地研究所,北海道大学は,札幌の積雪中に存在する光吸収性粒子が融雪に与える影響を国内・国外由来に分離して推定した(ニュースリリース)。
雪の表面(雪面)は,他の地表面と比べて太陽光をより多く反射するため,積雪は地球の放射収支に重要な影響を与える。
地球温暖化に伴って,地表面が積雪に覆われる場所と期間が減少している。その結果,太陽光をより吸収しやすい地表面が以前よりも長期間露出し,さらなる地上気温の上昇を引き起こす「アイス・アルベドフィードバック」が認識されている。
一般に融雪は,季節進行による気温上昇や太陽光の増加によって駆動される。近年,それらの気象場の変化以外にも,土壌などから飛散する鉱物性ダスト(ダスト)や,車の排ガスなどに含まれるブラックカーボンなど太陽光を吸収する不溶性粒子が雪面に沈着すると,雪面が吸収する太陽光が増加し,融解がより引き起こされやすい状態になる。
気象研究所は,光吸収性粒子と融雪について研究してきた結果,2007-2008冬期と2008-2009冬期の札幌における消雪が,光吸収性粒子によって約2週間早められていたことを明らかにした。しかし,それらの積雪中光吸収性粒子がどこからきたのかは不明だった。
そこで研究では,気象研究所で開発している詳細な積雪変質モデルと領域気象化学モデルを組み合わせて活用し,2011-2012冬期(11~4月)の札幌に到達して積雪に沈着した国内・国外由来の光吸収性粒子量をシミュレートし,融雪に対する両者の相対的影響を評価した。
その結果,研究対象期間に札幌に到達して積雪に沈着したブラックカーボンと鉱物性ダストに国外由来の粒子が占める割合は,それぞれ約82%と約94%に達することが分かった。また,札幌における全積雪中光吸収性粒子は融雪を15日早める効果を持っており,そのうち国外由来の積雪中光吸収性粒子の寄与が約7割(10日)に達したことが明らかになった。
さらに,積雪中光吸収性粒子による雪面での放射強制力を評価したところ,12~2月の厳冬期の全放射強制力は約12Wm-2であり,そのうち約60%が国外由来の積雪中光吸収性粒子によることが分かった。
一方,3月の融雪期になると,全放射強制力は約30Wm-2に急増し,国外由来の積雪中光吸収性粒子の寄与も約80%にまで上昇することが明らかになった。この寄与率の明瞭な変化は,我が国周辺における厳冬期と融雪期の気象条件の違いによって説明することが出来るという。
研究グループは今後,将来予測の信頼性向上と,それに基づく適応策の高度化を目指すとしている。