東芝は,量子暗号通信システムの主要構成機能を光集積回路化し,これらを実装した世界初の「チップベース量子暗号通信システム」の実証に成功した(ニュースリリース)。
量子暗号通信は,通信中の暗号鍵の盗聴を検出できることが理論的に保障されている。
量子暗号通信は,量子コンピュータ時代における新たな安全対策として広く普及することが期待されており,その関連市場は,2035年度には約200億米ドル(約2.1兆円)と見込まれているという。
量子暗号通信の活用を拡大するには,システムの小型化,軽量化,低消費電力化が不可欠となる。一方で,現在製品化されている量子暗号通信システムは,レーザーやビームスプリッタといった光学部品で実装した複雑な光回路で構成しており,小型化,軽量化,低消費電力化には限界があった。
そこで同社は,量子暗号通信システムの主要な機能をチップ化し,これらを用いてリアルタイムの暗号化通信を可能とする世界初の「チップベース量子暗号通信システム」を開発し,実証に成功した。
量子暗号通信は,微弱な光信号の位相で表現された量子ビットによって配送される暗号鍵を用い,データを暗号化して通信する。開発したシステムは,これらの量子ビットを送信する「量子送信器」,受け取る「量子受信器」,および暗号鍵を用意するために必要な一様性の高い乱数を発生する「量子乱数発生器」をチップ化した。
試作したチップの大きさは,量子送信チップが2x6mm,量子受信チップが8x8mm,量子乱数発生チップが2x6mmと小型で,標準的な半導体製造技術を用いて1枚のウエハー上に数百のチップを一度に製造することで,量産が可能。
今回,これらの3つのチップを用いて,50kmの光ファイバによる長距離の暗号鍵配送を実証した。また,生成した暗号鍵を市販の100Gb/sの暗号化機器に配送することで,データを暗号化し,リアルタイムに暗号通信を行なうことに成功した。
都市内通信を想定した10kmの光ファイバを用いた実験では,暗号鍵の生成速度は5.5日間の連続動作の平均値で470k/sに達し,これはビデオ通話での活用が可能なレベルだという。試作したシステムは,標準的な1Uサイズのラックマウントモジュールに収まり,小型・軽量化および低消費電力化を実現した。
同社グループは,この成果の2024年の実用化と,安全な通信を実現するプラットフォームの構築を目指すとしている。