農工大,光素子に応用可能な超小型ヒータを開発

東京農工大学の研究グループは,遷移金属のCo(コバルト)を積層したSi(シリコン)光導波路(Siプラズモニック導波路)に光が到達し,吸収された光が発熱する際の温度上昇を金属の抵抗の変化を測定することにより明らかにした(ニュースリリース)。

光通信では更なる高速化のため,配線を光化する光配線や光集積回路の実現が求められている。

しかし,光信号の切り替えに電気信号が用いられていること,電気回路でコンデンサの役割を果たすメモリ素子が光回路で実現していないこと,電気配線による大規模集積回路で使われている素子よりも小さい光素子の実現が大きな課題となっている。

電気信号の代わりに,光信号が光回路と金属の界面で吸収される際の発熱と温度上昇によって光信号をオンとオフで切り替えたり,材料の状態を変えたりすることが提案されているが,発熱領域が千分の一ミリ四方程度と小さいため,発熱と温度上昇を正確に測定することが困難だった。

研究では,SOI基板の上に幅0.4μm,高さ0.25μmの微細な構造を長さ3.5mmにわたって形成し,SiとSiO2や空気からなる光導波路を作製した。光導波路の中央部分に長さ8μmにわたって厚さ0.2μmのCo金属を製膜し,Siプラズモニック導波路を作製した。そして,Co金属の両側から電気抵抗を測定できるように電極を形成した。

光導波路に波長1.55μmのレーザーの光を入射し,電気抵抗の変化から温度上昇を見積もったところ,Coの電気抵抗の変化が入力したレーザーの強度の変化に比例して大きくなることを観測した。

実験に先立って測定したCoの電気抵抗の温度依存性を考慮すると,Co金属が製膜されたSi光導波路部分の局所的な温度は,レーザー光の強度が6.3mWの時に243℃となることがわかり,先行研究と比して,温度上昇を正確に見積もることができた。

得られた温度は,光ディスクに用いられる相変化材料の一つであるGe2Sb2Te2(GST)や,光磁気ディスクにおいて情報を書き込む際に必要とされる温度を超えるという。

Si,SiO2,Coの界面には1μm以下の小さい領域に光を閉じ込めることができる。研究グループは,Siを伝搬する光がCoに到達したときの相互作用をより大きくすることで,光熱変換効率の向上と更なる小型化(1μm以下),より高い温度への昇温と高密度化を目指す。

また,高速動作に適した素子構造の実現により光スイッチやメモリを実現し,光演算回路への搭載やAIチップへの応用,lab-on-a-chipにおける加熱機構の付加やオンチップ光センサへの応用を目指すとしている。

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