東北大ら,岡山産鉱石に量子力学的なゆらぎを発見

東北大学の研究グループは,岡山県高梁市布賀鉱山で産出する逸見石が量子力学的なゆらぎの強い磁性体であることを発見した(ニュースリリース)。

太古からの地球の活動により作られた天然鉱物は,人工的に合成された無機固体結晶と比較しても多様な結晶構造を持つ。

結晶構造の多様性は物質の示す性質の多様性に繋がるため,天然鉱物の示す磁性は古くから物質科学者たちの興味を集めていた。研究グループはその中でも,日本産新鉱物に注目した。

我が国では今までに140種類を超える多くの新鉱物が発見されている。しかしサンプルの稀少さから,固体物理学の視点で物性研究をした例は多くなかった。逸見石は世界でも岡山県高梁市の布賀鉱山でのみ産出する代表的な日本産新鉱物。化学式はCa2Cu(OH)4[B(OH)4]2で示され,濃紺やすみれ色を呈する美しい結晶が見られる。

研究グループは,磁性を担う二価の銅イオン(Cu2+)が歪んだ二次元正方格子を作ることから,低次元性を持つ磁性体として注目した。量子力学の効果が強く現れる低次元磁性体は,量子コンピューターなどへの応用が期待されているという。

研究では,逸見石が量子力学的なゆらぎの強い磁性体であることを,放射光や理論計算,極低温物性測定を用いて発見した。結晶構造の詳細を調べるため,天然の逸見石サンプルを用いてKEKの放射光実験施設フォトンファクトリーにおいて,放射光X線回折を行なった。このデータを用いた精密な結晶構造解析により,逸見石が従来の報告とは異なる結晶構造を持つことを明らかにした。

今回決定した結晶構造とそれに基づく理論計算から,逸見石は量子力学的なゆらぎが強く現れる磁気スピン-1/2 二本足はしご系と正方格子系の中間の性質を持つことが分かった。

磁化測定および極低温までの比熱測定を行なったところ,逸見石は反強磁性相互作用を持つものの,ゼロ磁場中においては絶対温度0.2度と極低温まで,スピンが整列する磁気秩序が起こらないことが分かった。

これらの結果から,逸見石の結晶構造と磁気スピン格子の幾何学的な特徴で生じる量子力学的なゆらぎが,磁気スピンの秩序化を抑制したと考えられるとした。

この発見は,稀少さのために磁性研究の舞台に上がることが少なかった「日本産新鉱物」に注目するという,新しい視点を持つ。研究グループは今後,日本産新鉱物の多様性に注目することで,驚くような物理現象の発見が期待されるとしている。

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