京大ら,反強磁性体に磁気振動モードの結合を発見

京都大学と業技術総合研究所は共同で,二つの磁石の磁極が逆方向に結合した人工反強磁性体において<反強磁性体特有の二つの磁気振動モード(音響モード・光学モード)が,特定の条件下において反発し合う事を発見した(ニュースリリース)。

二つの異なる準粒子の結合を利用したハイブリッド量子系は,量子コンピューターや量子情報通信など量子情報技術への応用に向けて研究が進められている。これまでは,二つの異なる準粒子の結合(フォトンーマグノン結合,フォノンーマグノン結合など)が主に研究されてきた。

近年,磁気の準粒子であるマグノン同士の結合(マグノンーマグノン結合)についても研究が進められている。マグノンとは磁石が作る波(スピン波)を量子力学的に扱った粒子の事で,マグノンを利用した電子回路は小型で低消費電力の情報処理システムを作り出す技術として期待されている。

研究では,磁性材料として鉄コバルトボロン合金(Fe60Co20B20)を用い,非常に薄いルテニウム(Ru)非磁性層を介して,それぞれの磁極が逆方向に結合した人工反強磁性体を用いた。この人工反強磁性体の薄膜の上に,高周波磁場によってスピン波の励起および検出を行なうためのアンテナを作製した。

この人工反強磁性体を用いた実験において,二つの共鳴周波数が一致する磁場の条件で,共鳴周波数が反発し合う事を発見した。反発し合う事は,それぞれの振動モードが結合しエネルギーのやり取りしていることを意味するという。またギャップ周波数から結合強度gを求めたところ,エネルギー散逸による共鳴ピーク線幅より大きいことから,強結合状態が実現されていることがわかった。

次に,磁場印加方向を固定し,励起するスピン波の波数(波長の逆数)を変化させながらスピン波共鳴スペクトルを測定したところ,反発の大きさ(つまり結合強度)は波数に比例することもわかった。

この実験結果から,観測されたマグノン-マグノン結合の物理的起源は,スピン波が励起されたことによる磁気双極子相互作用ではないかと考え,磁気双極子相互作用を含めた理論モデルを構築し解析を行なったところ,実験結果をきれいに再現する事ができた。また,反発が起こるのは磁気双極子相互作用によって上下の磁石の交換に対する対称性の破れが起きている時だとわかったという。

この研究成果は,量子情報処理を目指して研究が進められているハイブリッド量子系に新しい視点を与え,マグノンを利用した新たな情報処理技術の開拓につながることが期待されるとしている。

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