東大ら,カイラル磁性体に巨大磁気光学効果を発見

東京大学,理化学研究所,東北大学は,カイラル磁性体MnGe(Mn:マンガン,Ge:ゲルマニウム)の薄膜において,トポロジカル磁気構造の形成に由来する巨大な磁気光学効果を発見した(ニュースリリース)。

強磁性体における異常ホール効果の発見は19世紀までさかのぼるが,その起源については長年の間活発な議論の的となっている。

近年の研究では,物質の電子構造のトポロジーが異常ホール効果に重要な役割を果たしていることが明らかになっている。さらに,トポロジカルなスピン構造がトポロジカルホール効果という新しいホール効果を引き起こすことが発見され,大きな注目を集めている。しかしながら,トポロジカルホール効果の背景物理に迫った実験研究は極めて限られていた。

研究グループは,MnGeに着目。MnGe中ではヘッジホッグ状のスピン構造が生じることで,巨大なトポロジカルホール効果が現れる。研究グループは,このホール効果の生成メカニズムに迫るため,光学領域のホール効果に相当する磁気光学効果に着目した。

MnGe薄膜を用い,テラヘルツ帯である遠赤外領域の磁気光学ファラデー効果測定を行なった。測定の結果,この帯域で磁気光学効果が顕著な共鳴を持つことがわかったという。

この共鳴現象の出現に同期して,ホール伝導度スペクトルにも顕著な共鳴構造が観測されることから,この光学領域の共鳴現象がMnGeの巨大なホール効果の起源であることがわかった。

理論モデルを用いて解析すると,この共鳴構造は2つの異なる要素から構成されており,1つは異常ホール効果に,そしてもう1つがヘッジホッグ格子の形成によって生じているトポロジカルホール効果に対応していることを明らかにした。

研究では,MnGe薄膜の異常・トポロジカルホール効果がともにテラヘルツ領域に存在する共鳴構造に由来することを明らかにした。近年ではヘッジホッグ格子以外にも様々なトポロジカル磁気構造が見つかり,スピンの集団が作る特異な物理現象が益々注目を集めている。

研究グループは,今後は今回発見したトポロジカル磁気構造の磁気光学応答の普遍性の検証が待たれるという。また,ヘッジホッグ格子のようなトポロジカルスピン構造はその安定性から将来の情報担体としての役割を期待されており,今回の成果はトポロジカルスピン構造の存在を光によって高速かつ非接触に検出する技術の開発へ向けた,重要な一歩だとしている。

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