東京医科歯科大学と慶應義塾大学は,非接触型センサーを用いた手指動作解析と機械学習を組み合わせることにより,頚髄症を簡便にスクリーニングする方法を開発した(ニュースリリース)。
頚髄症は,頚部で脊髄が圧迫されることで手指の動かしにくさや歩行のふらつきを引き起こす疾患だが,初期は自覚症状が乏しいことや,専門医以外では診断が難しいことなどから,専門病院を受診し頚髄症と診断されるまでの間に症状が悪化してしまうことがある。そのため,早期診断と早期治療につながるスクリーニングツールの開発が望まれていた。
研究では,頚髄症による手指動作の変化に着目した。従来の診察の1つに,10秒テストという手指の開閉を10秒間繰り返す検査があるが,この検査ではその開閉の回数のみを計測しており,手指の動かしにくさを手首の動きで代償するなどといった頚髄症患者特有の動作の変化には着目できていない。
研究グループは,この運動に対し,「Leap Motion」(英Ultraleap製)という赤外線により手指動作をリアルタイムで計測できるセンサーで,より詳細な変化を抽出することが可能となり,さらに機械学習を用いることで疾患有無の予測が可能になると考えた。
被験者はノートパソコンに接続した「Leap Motion」の前に座り,腕を伸ばした状態で手指の開閉動作をできる限り速く20回行なう。この間の手指の動きは「Leap Motion」により,リアルタイムでディスプレー上に表示され,データとして記録される。
今回は頚髄症患者50名,頚髄症がない被験者28名を対象とし,「Leap Motion」によって得られた各手指の時系列データを周波数領域に変換し,機械学習を行なった。最終的に感度84%,特異度60.7% ,AUC 0.85という精度の高い結果が得られた。これは専門医が診察時に行なう身体所見と同等以上の精度だという。
今回用いた「Leap Motion」は,従来の動作解析の分野で頻繁に使用されるモーションキャプチャなどと異なり,体に直接センサーを装着する必要がないため,簡便かつ短時間で検査が可能。また現在の新型コロナウイルスがまん延している環境において,非接触で検査ができることも重要となる。
さらに,機械学習を使用することで,「Leap Motion」が記録した高次元データの解析が可能となり,専門医のいない環境でも高い精度が得られた。これらの点から,今回の研究は,大人数を対象としたスクリーニングに適しているとしている。