東京大学の研究グループは,世界最薄・最軽量の皮膚貼り付け電極によって,高精度に心電図を1週間計測することに成功した(ニュースリリース)。
ウェアラブルデバイスでは,皮膚に密着することでより高精度な生体信号を計測できるため,軽量で伸縮性の高い薄膜フィルムやゴムシートを用いた電子機器が盛んに開発されてきた。
さらに,デバイスを薄膜化すると装着時の負荷を減らすことができると同時に,ガス透過性が増加するため,長期間の使用において汗が溜まることなどによる皮膚の炎症やかぶれを防止できるようになる。
しかし,超薄型でありながら伸縮性と機械的耐久性を両立することは困難であるため,皮膚に長期間貼り付けて心電を計測できるナノ寸法厚みの電極はこれまでなかった。
研究グループが開発した皮膚貼り付け電極は,極薄性,高耐久性,高粘着性,通気性をすべて兼ね備えた伸縮性ナノシートの上に作製されている。非常に薄く(100nm以下),高い水蒸気透過性を有する(1日当たり14.6kg/m2)。
そのために皮膚に貼り付けても本来の皮膚呼吸が可能であり,汗による炎症反応やむれを起こさないという。また,糊や粘着性ゲルなどの粘着剤を用いずにシートのファンデルワールス力だけで皮膚に貼り付けることができるため,装着した際の皮膚への負荷を格段に低減できる。
さらに,ナノシートは,非常に薄いジメチルポリシロキサンを電界紡糸法にて形成した数層のポリウレタンナノファイバーで強化することで,優れた機械特性を実現している。ナノシート自身の重さの7万9千倍以上の重さの液体を支えることができることや繰り返し伸縮(40%,千回)における機械特性の変化を3%以下にまで低減されていることを確かめた(初期のヤング率:13.7MPa,伸縮後:14.1MPa)。
さらに,ナノシートの上に薄膜金を形成することで,装着時の負担を低減しつつ,長期にわたって生体情報を取得できる皮膚貼り付け電極を実現できるという。
従来のゲル電極は,1日以上貼り続けると乾燥してしまい,貼り付けた直後と同等の信号を計測することができなかった。一方,今回開発した電極はドライ電極であり,皮膚の伸縮や日常生活におけるこすりなどに対して高い機械耐久性を有するため,長期間皮膚に貼りつけて生体情報を取得することができる。実際,貼り付けた直後と1週間後共にゲル電極と同等の信号を計測できることを確認したという(貼り付け直後と1週間後の雑音レベル共に10マイクロボルト以下)。
研究グループは今後,病気や体調不良を早期発見するためのウェアラブルデバイスとしての応用が期待されるとしている。