九州大学先と東京工業大学は,光の伝播を自在に操るために欠かせないダイオードのような整流作用のあるナノ光学デバイスを実証した(ニュースリリース)。
日常生活に欠かせない情報技術は多くの電子デバイスに支えられている。しかし,電子制御のみに頼った技術で情報処理速度を今後飛躍的に向上させることは難しく,速度に優れた光学デバイスの導入が必要とされている。
そこで,トポロジカル絶縁体の理論を光伝播の制御に応用する研究分野「トポロジカルフォトニクス」が近年注目を集めている。今回,研究グループが開発したナノ光学デバイスの動作原理は,電気伝導について物質内部は絶縁体であるにもかかわらずエッジ(表面や境界)だけ導体というトポロジカル絶縁体の不思議な性質を利用したもの。
表面プラズモンを利用するアイディアは他の研究グループからも提案されていたが,その伝播をナノスケールで実証する実験が難しく,これまで理論上の話に留まっていた。そこで今回,この性質が光伝播においても発現するような人工ナノ構造を設計し,その光伝播を直接可視化した。
トポロジカル絶縁体は原子が規則正しく並んだ結晶だが,今回,原子の結晶を模した構造として,金属ナノ構造を規則正しく並べた人工結晶を作製し,光に対する「絶縁体」の機能が発現するようにした。
作製した人工結晶は非対称な形をしており,これがトポロジカルな性質が発現するための重要な構造的特徴となっているという。この非対称な人工結晶とそれを反転させたもう一つの人工結晶を接続して境界(エッジ)を形成すると,その境界上でのみ光伝播が発現し,境界に沿って一方向に伝播する整流性を獲得する。
この人工構造は金属で構成されており,光は金属表面の自由電子集団の粗密波(表面プラズモン)に変換され,ナノスケールに圧縮されて伝搬する。研究グループは今回,世界に先駆けてこのトポロジカルに保護された光伝搬をナノスケールで実現し,電子顕微鏡によってその伝播を直接可視化することに成功した。
この分野のほとんどの研究者が光学的計測手法を用いる中,研究グループは電子顕微鏡の中で加速電子によって表面プラズモンを発生させ,ナノ構造によって光に変換されたものを検出するカソードルミネセンス法という全く別のアプローチで挑んだことが成果に繋がったとしている。