東邦大学の研究グループは,光学不活性なインドリルスルホンアミド類が,特定の分子間相互作用の種類と組み合わせにより,高い割合で光学活性な結晶を与えるキラル結晶化を示すことを発見した(ニュースリリース)。
キラリティーにおける「右手型の分子」と「左手型の分子」が同量を混合した溶液(ラセミ体の溶液),あるいは両者の構造が素早く入れ代わる分子の溶液は光学不活性であり,その溶液から得られる結晶は多くの場合,右手型と左手型の分子が同量混合した光学不活性な結晶(ラセミ化合物)となる(ヴァラッハ則)。
しかし,これらの光学不活性な溶液から,まれに右手型のみの分子が集まった光学活性な結晶と,左手型のみの分子が集まった光学活性な結晶がそれぞれ別々の結晶(コングロメレート)として得られる化合物が存在し,キラル結晶化と呼ばれる。
研究グループは,光学不活性なインドリルスルホンアミド類(インドールアミンのベンゼンスルホンアミド誘導体)が,他の一般的な化合物と比較して異常に高い割合で光学活性な結晶を与えること,すなわちキラル結晶化を示すことを見出した。
さらに,研究グループがこれまでに提唱した,相互作用で結びつけられた分子同士のキラリティーの同一性の比率(Mchiral)を用いて網羅的な解析を行ない,インドリルスルホンアミド類におけるキラル結晶化現象が,結晶中分子間に働く特定の相互作用の種類に影響を受けることを明らかにした。
分子間に働く弱い相互作用の中で,CH・・・π相互作用はキラル結晶化に有利に働くが,水素結合やπ・・・π相互作用は不利に働いていた。インドリルスルホンアミド類では結晶中,前者の相互作用が後者の相互作用に比べて優位に見られることにより,キラル結晶化を示す化合物の割合が高くなっていることが示唆されたという。
これまでキラル結晶化現象と化学構造との関係は明確でなく,構造的な特徴に寄らず様々な化合物群で偶然に起こる現象と考えられてきたが,キラル結晶化現象の起源の解明へ大きく前進したとする。
研究グループは,キラル結晶化は,光学不活性な状態(溶液など)から結晶化操作のみによって光学活性な結晶が得られる現象であり,光学活性を示す化合物や材料の新規合成法の開発に繋がることが期待されるとしている。