東京医科歯科大学の研究グループは,青波長の走査型レーザー検眼鏡による広角眼底撮影の単一の眼底写真が,造影剤を使用せずに広範囲の眼底の網膜無血管野を高率に検出できることを示した(ニュースリリース)。
糖尿病網膜症は糖尿病の三大合併症の一つであり,視覚障害の全国調査でも上位を占める。
糖尿病網膜症の進行は,網膜毛細血管の障害と血管からの血液・血漿成分の漏出を主とする病態から,毛細血管床の閉塞(無血管野の形成)へ進行し,さらに無血管野における網膜虚血によって重篤な合併症である網膜血管新生を生じる。
網膜虚血と新生血管を伴う増殖期においては網膜光凝固が必要で,増殖前網膜症の段階で網膜無血管領域を早期に発見し,網膜光凝固することによって増殖網膜症への進行を抑制することが期待できるため,糖尿病網膜症において網膜虚血を発見することは臨床上非常に重要なことであると考えられている。
しかしながら,網膜無血管野をみつけるためにはフルオレセイン蛍光眼底造影検査が必要であり,造影剤の使用が難しい患者さんがいることやアナフィラキシーショックなど一定のリスクが伴う問題があった。また近年,造影剤を使用しないOCTアンギオグラフィーもあるが,眼底の周辺部まできれいな画像を得ることは臨床上困難だった。
糖尿病網膜症を対象に,赤緑青の3色を有する走査型レーザー検眼鏡(ニデック製)の青波長の広角眼底画像を通常の蛍光眼底造影検査の所見とともに比較検討することを行なった。その結果,蛍光眼底造影検査で検出された網膜無血管野の約8割以上は青波長のレーザー走査型広角眼底画像でも確認できることが示されたという。
糖尿病網膜症の進行を示す網膜無血管野を調べるためには蛍光眼底造影検査を行なう必要がある。一方で造影剤が使用できない症例や,使用へのリスクなどから,この検査にはハードルがあり,網膜虚血の存在が確認できず治療が遅れてしまう症例なども少なくないと考えられる。
今回の研究では,青波長の広角走査型レーザー眼底撮影は造影剤無しで糖尿病網膜症における網膜虚血を高率に検出できることを示した。また糖尿病網膜症の無血管野の形成は網膜の広範囲に生じるため,広角眼底撮影の単一画像で無血管野を見落とすことなく簡易に検出できる可能性も示唆された。
この方法は非侵襲的かつ簡易であるため,広く糖尿病網膜症患者の診断精度の向上につながり,新生血管のような重篤な合併症を起こす前に無血管野に対する治療を行なえることで失明防止に貢献するとしている。