東大ら,有機半導体で「絶縁体―金属転移」を実証

東京大学,産業技術総合研究所,物質・材料研究機構は,極めて高純度かつ欠陥のない有機半導体単結晶の1分子層(厚さ4nm)に高密度にキャリアを注入することで二次元ホールガスが形成され,さらに4分子当たり1電荷に相当する高密度のホールを誘起したところ,「絶縁体―金属転移」を世界で初めて実験的に観測することに成功した(ニュースリリース)。

不純物のない絶縁性の固体物質に電子や正孔を高密度に注入することで,絶縁体から金属へと変化することが知られている。

この「絶縁体―金属転移」は,半導体的な性質を持つ有機半導体結晶についても研究が進められてきたが,欠陥のない極めて高純度な有機半導体薄膜を製造することが困難で,実験的に実証されていなかった。また,有機半導体の結晶は分子間力のみの弱い相互作用で構成されているため外界からのかく乱に弱く,高密度に電荷を注入することも困難だった。

研究グループはこれまで,厚さが数分子層の有機半導体単結晶薄膜を印刷プロセスによって作製する手法/技術を開発してきた。この手法で得られた有機半導体C8-DNBDT薄膜の表面には,わずかな欠陥もなく,薄膜中の分子層数までも精密に制御されているため,絶縁体―金属転移を実証するために最適な薄膜となる。

このような薄膜表面を用いて,電気二重層トランジスタ構造(EDLT)を作製した。EDLTは,一般的な電界効果トランジスタの絶縁体層をイオン液体に置き換えたものであり,小さな電圧で高密度に電荷を注入することができる。

今回,EDLTを用いてC8-DNBDTに4分子当たり1電荷に相当する高密度のホールを誘起したところ,260Kにおいて17kW程度の低いシート抵抗(Rsheet)を得た。これは,一般的な電界効果トランジスタを用いた場合と比べて1桁程度低い値であり,絶縁体―金属転移の指標となる量子化抵抗(25.8kW)に比べても十分に小さい。

高密度のキャリア注入が実現したことで,C8-DNBDT薄膜のシート抵抗は10K程度の低温まで単調に減少し続けるという金属状態特有の温度依存性を示し,有機半導体結晶においても金属状態が実現していることを世界で初めて明らかにした。

また,Hall効果測定により得られたキャリア移動度の温度依存性は二次元電子系の標準モデルと一致していることがわかり,この系において1分子層厚みに電荷が閉じ込められた二次元ホールガスが形成されていることが明らかとなったという。

この成果は,有機半導体における電子相転移の基礎研究に加えて,高速電子デバイスや量子エレクトロニクスデバイスへの応用が加速するものだとしている。

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