筑波大ら,光照射による結晶中の酸素移動を観測

筑波大学,東京工業大学,広島工業大学は,特殊なセラミックス材料に光照射することで,酸化物イオンを室温下で瞬間的(1兆分の1秒以下の時間スケール)に移動させることに成功し,その様子を世界で初めて直接的に確認した(ニュースリリース)。

強相関電子系のセラミックス材料はさまざまな原子配置を持ち,温度変化や光照射により,物質の特性を大きく変えることができる。このような物質に光を当て,物質中の電子の動きやすさを大きく変化させる現象(絶縁体から金属へ変化)は数多く報告されてきた。

しかし,光照射によって生じるイオン,特に電子に比べて1万倍以上重い酸化物イオン(酸素の陰イオン)の物質中の移動はこれまで報告されておらず,光によって酸化物イオンを固体中で移動させることができれば,燃料電池や二次電池などの開発に新しい展開をもたらすと期待されてきた。

研究グループは今回,ダブルペロブスカイト構造を持つ特殊なセラミックス材料(EuBaCo2O5.39)に光照射することにより,室温下で酸化物イオンを結晶中で移動させ,さらにその様子を直接観測することに世界で初めて成功した。

これは,1兆分の1秒の時間分解能で固体物質中の原子や分子の運動を直接的に観察できる超高速時間分解電子線回折法と,10兆分の1秒の時間分解能で固体物質中の電子の運動を観測できる超高速過渡反射率法,光照射の影響を取り入れた密度汎関数理論計算を組み合わせることによって実現した。

このセラミックス材料は,ヨーロピウム(Eu)イオン,バリウム(Ba)イオン,コバルト(Co)イオンおよび酸化物(O)イオンからなり,酸化物イオンの原子空孔が規則的な配置で導入されている。

この物質に波⻑400 nmの近紫外線を照射すると,電子が酸化物イオンの2p軌道からコバルトイオンの3d軌道へと移動する(電荷移動)。電子を受け取ったコバルトイオンは,瞬間的には不安定な状態になるが,周りの酸化物イオンの配置を歪ませる(ヤーン・テラー効果)ことで安定になろうとする。この時,歪もうとする力に押された酸化物イオンが隣の原子空孔の位置まで移動する。

この酸化物イオンの運動は非常に速く,光照射後1兆分の1秒以下で生じることが分かった。また,酸化物イオンの構造秩序は大きく変化するが,ダブルペロブスカイト構造自体の秩序は保ったままとなり,光を当てることによって固体中の酸化物イオンだけを移動させることになるという。

研究グループは,さらに研究が進むことで,光を用いた燃料電池や二次電池などの開発に新しい展開がもたらされるとしている。

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