東北大ら,厚さ2nm縦横1μmの光分子センサー開発

東北大学と産業技術総合研究所は,厚さ僅か2nmで縦横1μm程度の超小型半導体薄膜からなるセンサーを作成した(ニュースリリース)。

現在,気体や液体中に存在する分子種を特定するための実験装置は大型となってしまう。研究グループは,超小型半導体薄膜に微量の分子を吸着させたときの光応答電流を測定することにより,分子を検出する実験に成功した。

それぞれの分子には,最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)と呼ばれる二つの軌道が存在し,それらのエネルギー差(ΔE)は,分子を特徴づける重要な物理量となる。

分子が,ΔEに等しいエネルギーを持つ光を吸収すると,HOMOには正電荷をもつ正孔が,LUMOには負電荷をもつ電子が生成される。この正孔と電子を電気信号として測定することができるのであれば,分子に照射する光のエネルギーを掃引したときに,ちょうど光のエネルギーがΔEに等しい場合にのみ,電気信号が検出できることになる。

この現象を利用すれば,電気信号が検出されたときの光のエネルギーから,分子に特有のHOMOとLUMOのエネルギー差(ΔE)を求めることができ,さらに分子を特定することができる。

実験では,機械的剥離により作成した二硫化モリブデン(MoS2)3層からなる厚さ約2nmの原子層薄膜(縦横1μm)をシリコン酸化膜の上に配置し,さらにMoS2原子層薄膜の両端にチタン電極を蒸着することによって,MoS2電界効果トランジスタを作成した。

さらに,両端のチタン電極に電源を接続してMoS2原子層薄膜に電圧を印加したときに流れる電流は,MoS2原子層薄膜内の電子や正孔の濃度に依存する。このMoS2原子層薄膜に分子を吸着させると電子や正孔の濃度が変化するため,電流も変化する。

この電流変化から分子種を判断しようというのがMoS2原子層薄膜を用いたセンシングの原理だが,この方法では,様々な分子を区別することができないことがわかってきた。そこで,“特定のエネルギーを持つ光を照射したときの光応答電流を測定する”,という手法を用いて分子の性質を検出する実験を試みた。

π電子共役系分子として興味が持たれている銅フタロシアニン分子を吸着させたMoS2原子層薄膜に様々なエネルギーを持つ光を照射したときの光応答電流を観測する実験を行なったところ,1.76電子ボルトの光を用いると,銅フタロシアニン分子が吸着している場合にのみ光応答電流が観測された。

研究グループは今後,電気的に簡便に分子を特定できる新たなセンシングシステムの開発が可能だとしている。

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