東京理科大学の研究グループは,微細な配位子保護金属ナノクラスター(NCs)の特性を活かした新規不均一系触媒創製に不可欠な,配位子の脱離メカニズムを解明した(ニュースリリース)。
近年,NCsの特異な電子/幾何構造を活かした,新規不均一系触媒創製に関する研究が盛んに行なわれている。しかし,このような触媒創製において,特別な取り扱いなく配位子を除去すると,金属NCsは容易に担体上にて凝集してしまうため,そのサイズ特異的性質を失ってしまうという問題があった。
そのため,金属NCsの凝集を防ぎつつ,配位子を除去する方法の確立が待ち望まれている。しかし,配位子の脱離過程の化学的プロセスについてはこれまでわかっていなかった。高機能な不均一系触媒を作り出すためには,このメカニズムを解明した上で,適切な条件下で触媒作製を行なう必要がある。
今回,研究グループは,金属酸化物上にチオラート保護金(Au)25原子NCsが吸着した触媒について配位子脱離過程で起こる化学的プロセスを分子レベルで調べた。その結果,金属NCs表面での配位子の解離が起こった後,発生した化合物はまず担体上へ吸着し,その後担体上から化合物の脱離が起こる,という過程を明らかにし,さらに,それぞれの反応が生じる温度条件も特定した。
また,この得られた知見をもとに,Au25の凝集を防ぎつつその表面にCr2O3膜を形成させ,触媒の安定性を改善することにも取り組んだ。その結果,微細で安定なAu NCが担持された高機能な水分解光触媒を創製するためには,焼成から光照射までの時間を可能な限り短縮することが非常に重要であることを明らかにした。こうした条件で光触媒を作製することで,高活性でかつ高い耐久性を示す水分解光触媒の創製に成功した。
化石燃料に頼る社会からクリーンで再生可能なエネルギーを使用する社会への移行が急務となっている今,より効率的な水素生成のための水分解光触媒作製技術に注目が集まっている。研究所グループは,この研究で得られた知見が,高機能水分解光触媒の創製,ひいては高機能不均一系触媒を創製する上での明確な設計指針になり得るとしている。