金沢大学の研究グループは,生命現象の基盤的機構である細胞内相分離を評価できる蛍光プローブの開発に成功した(ニュースリリース)。
タンパク質やRNAなどの生体高分子が局所的に集まることで液滴を形成する相分離現象は,細胞内でおこる複雑な生命現象を効率よく進める基盤的機構として注目されている。
細胞内相分離は,膜のような仕切を使わずに区画化するため非膜オルガネラともいわれている。現在,相分離を調べるための主なアプローチとして,対象とする被膜オルガネラの内部動態を解析できるFRAP(光褪色後蛍光回復法)やラベルした二分子間のFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を用いた相分離形成分子の動態解析が使われている。
一方,これらの手法は,対象タンパク質を遺伝子工学技術で蛍光ラベルする必要性があり,高度な技術と時間を要するだけでなく,①解析対象が限定,かつ②汎用性が極めて低い,といった問題を抱えていた。
そこで研究グループは,周囲環境に応じて異なる蛍光特性を示すピレン化合物を利用したピレンダイマー型蛍光プローブ(Pyr-A)の開発に取り組んだ。
研究により,分子内エキシマー発光特性をもつピレンダイマー型蛍光プローブ(Pyr-A)を開発した。様々な条件下におけるPyr-Aの蛍光特性について調べると,極性溶媒中ではエキシマー発光,疎水性あるいは粘性環境下ではモノマー発光を示すことがわかった。
さらにエキシマーとモノマーの蛍光強度比(E/M比)測定により,Pyr-Aの濃度に関係なく観測対象の状態(極性,粘性)を定量化できることもわかったという。
続いて,試験管内におけるタンパク質の液滴や,細胞内における非膜オルガネラ一つである中心体を観察した。タンパク質の液滴サイズが大きくなるにつれて,E/M比が減少し,疎水性かつ粘性が高まることがわかった。
また,中心体を構成するタンパク質分子centrinを可視化できる細胞にPyr-Aを取り込ませ,異なる細胞周期にある細胞内中心体の状態を調べた。細胞分裂期に向けて中心体が成熟する過程で,疎水性・粘性が上昇することを見出した。
研究で提案した蛍光プローブによる相分離環境の評価技術は,相分離した高次構造体の物理化学的性質を包括的かつ簡便に調べることを可能とするという。研究所グループは,相分離の状態-機能に関する情報が蓄積されることで,相分離の状態を指標とした新たな診断ツール開発や細胞治療法の創出につながることが期待されるとしている。