矢野経済研究所は,ディスプレー・光学,電気・電子,一般産業用のベースフィルム及び加工フィルムなどの高機能フィルムの世界市場を調査し,製品セグメント別の動向,参入企業の動向,将来展望を明らかにした(ニュースリリース)。
それによると,FCCL(Flexible Cupper Clad Laminate:フレキシブル銅張積層板)用PI(Polyimide:ポリイミド)フィルムの2021年世界出荷量(メーカー出荷数量ベース)は,前年比111.8%の6,925tの見込みだとする。
2021年は,例年であればクリスマスや旧正月などの年末年始特需が一段落する1月~3月にかけてスマートフォン端末の生産量が下がらず,4月以降も成長が続いているという。
その他用途では,自動車メーカーのCASE対応により車載電装品の搭載が増え,センサーやバッテリーコントロールなどでのFPC(Flexible printed circuits:フレキシブルプリント基板)の需要が拡大している。加えて,xEVの普及で車載用リチウムイオン電池(LiB)の絶縁テープなど,ICT関連以外の用途でのPIフィルム採用量が急成長したとして2ケタ成長を見込んだ。
また,5G対応を狙い,低誘電正接・低吸水の改良PI(MPI)の開発も進んでいるという。これまでFPCやTAB,アンテナなどの基板用絶縁フィルムには,超低温(-269℃)から超高温(400℃)までの広範囲な温度領域でも優れた機械的・電気的・化学的特性を有するPIフィルムが主に使用されてきた。
従来のPIフィルムは,吸水率1%以上,誘電正接(Df)0.01(10~28GHz帯)程度で,4Gまでは問題なく使用できるものの,5Gレベルの高速・大容量通信では伝送損失による通信の速度・容量の低下が問題となる。
特に5Gの中でもサブ6,ミリ波などSA(Stand Alone)方式の高周波帯域ではアンテナやFPCでの伝送損失を抑制するため低誘電の基板材料が求められており,FPCやTABなどの各種基板の絶縁材料では誘電正接や吸水率をどこまで下げられるかが課題で,PIフィルムメーカーでは改良PIフィルム(Modified PI:MPI)の開発が進んでいるという。
また,回路メーカーの中には,5Gスマートフォンアンテナの基板材料として,PIに替わり低吸湿で電気特性に優れたLCP(液晶ポリマー)を採用する動きもあるとする。
現時点では5Gのインフラが整っている地域は世界的に見ても先進国の都市部に限られており,5G対応スマートフォンの多くは既存の4G LTEの周波数に対応したNSA(Non Stand Alone)製品。
サブ6やミリ波に対応した低誘電のMPIフィルムは,NSA製品ではオーバースペックであり,端末メーカーの中にはアンテナと基板を結ぶFPCを短くすることで伝送損失を抑えるなどして既存のPIフィルムを使いこなす動きもあるとみている。
そのため,現状では各社とも低誘電PIフィルムの販売量はサブ6対応グレード,ミリ波対応グレードともにごく一部にとどまっているものと見ており,本格的な需要拡大はSA対応の5Gインフラが整うまで今少し時間がかかるとしている。