海洋研究開発機構(JAMSTEC)は,残留応力場の中での動的破壊進展の数値解析により,化学強化ガラスが一瞬で破壊される過程をほぼ完全再現することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
スマートフォンなどで使用される化学強化ガラスは,表面の傷には強いものの,傷が(たとえものすごく小さくても)ガラスの内部にまで到達すると,ガラス全体が割れることが知られている。そしてこの「壊れ方」は,化学強化ガラスの「強化の度合い」によって大きく異なる。
ガラスは引っ張りの力に弱くて圧縮の力に強いため,強い圧縮の力を表面に発生させておくことで,表面に多少の傷が入っても,その傷は圧縮の力によって閉じられる。しかし,ガラスの内部には引っ張りの力が生じており,傷が表面の圧縮層を超えて内部の引っ張り層にまで侵入してしまうと,傷は一気に成長し,ガラスを内部から一瞬で破壊する。
この表面の圧縮と内部の引っ張りの力である「残留応力」により,化学強化ガラスが一瞬で破壊するときには,「ガラスの中で(最高速度約2000m/sで)高速進展する亀裂」「亀裂が進展することによる残留応力の解放と再配分」,また「亀裂進展と残留応力の解放によってガラスの中に発生する波動」とが,ナノ秒の時間スケールで相互作用をしながら,亀裂が予想もつかない方向に枝分かれを繰り返したりしつつ,進展する。
この現象を詳細に数値解析することは非常に難しいため,研究では,①部分的に破壊された領域における残留応力の精緻な評価,②破壊の進展に伴って刻一刻と変化する場のダイナミクスの正確な表現,③これらと絡み合いながら再分配される残留応力が作り出す物理場の正確な表現,これら全てを同時に扱う「残留応力場の中での動的破壊進展解析手法」を開発し解析を試みた。
そして,この手法を用いて横幅方向に約4,000分割,高さ方向に約260分割,厚さ方向に約100分割した,非常に細かいメッシュで実験と同条件を再現し数値解析をした結果,残留応力レベルに応じた亀裂を十分に再現することができたという。
また,破壊進展過程の数値解析結果をナノ秒スケールの時間分解能で可視化することにより,実験では撮影不可能な物理量の詳細な挙動が明らかになるとともに,破壊終了後もガラス片の中で解放されずにまだ残っている残留応力の分布を見て取ることができたとする。
この成果は蓄積されたひずみエネルギーが破壊によって解放される過程で普遍的に観察される現象を再現したものであり,研究グループは,今後,地震断層挙動の解明・予測にも応用できる可能性があるとしている。