豊橋技術科学大学の研究グループは,Mn4+を賦活剤とした新規蛍光体の母材として,ユニークな周期構造を有する材料(スマートマテリアル:Li-M-Ti-O (M=Nb or Ta))を活用し,493nm励起により685nmの赤色発光を示す蛍光体を合成した(ニュースリリース)。
主な白色LEDは,青色光により黄色蛍光体を発光させることで白色を得るが,この方法では,太陽光に比べると赤色光が足らない分,演色性は低いと評価されるため,赤色発光を示す蛍光体は,高演色化材料として重要とされている。
研究グループは,これまでスマートマテリアル(Li-M-Ti-O (M=Nb or Ta))を母材にし,Eu3+を賦活剤にした赤色蛍光体の合成を行なってきた。今回,希土類を用いない材料として,Mn4+を賦活剤とした新規赤色蛍光体の合成に取り組んだ。
Li-Nb-Ti-O(LNT)系とLi-Ta-Ti-O(LTT)系は,いずれも自己組織的に周期構造を形成し,TiO2添加量によりインターグロース層の周期間隔が変化するスマートマテリアル。LTTのほうが周期構造形成の領域がLNTよりも狭く,周期形成のための焼成条件にも差があるという。
そこで,LNTとLTTを比較しながら,焼成温度,組成,結晶構造,MgO共添加による発光強度とMnイオンの価数変化を詳細に調べた。その結果,焼成温度や組成による結晶構造変化により,LTTの方がLNTより発光強度は顕著に高くなることが分かった。一般に焼成温度が高いとMn4+からMn3+に還元されやすく,そのため発光強度は低下する。
結晶構造変化では,TiO2添加量が増えると,周期を形成しているインターグロース層[Ti2O3]2+の数が増える。このインターグロース層はTi3+イオンで形成されているため,周囲の酸素欠損によりMn4+からMn3+を促進することが分かった。
さらに発光強度を向上させるため,MgOを添加したところ,周期構造を持たないLTT蛍光体が,Mn4+率100%を示し,最も明るい発光強度を示した。研究グループは,Mn4+率を制御することで,焼成温度はもちろん,結晶構造変化にも顕著に差が出るのことに気が付いたという。
今回合成した Mn4+を賦活剤とした蛍光体は,Mn4+率を上げるため,850℃と比較的低い焼成温度で合成を行なう必要があるため,今の条件では結晶性がやや低いという課題がある。研究グループは今後,合成プロセスの工夫と様々な共添加剤により,さらに明るい赤色蛍光体の合成に取り組みたいとしている。