神戸大学の研究グループは,非破壊的な光合成パラメーターの測定法により,植物における12の必須元素の欠乏ストレスを診断する方法を開発した(ニュースリリース)。
環境ストレスによる光合成能力の低下を最小限に抑えることは,作物の増収に大きく貢献することが予想される。これまでの研究で,人為的に光合成電子伝達系に還元力を蓄積させると<チラコイド膜上の光化学系I(PSI)において酸素が一電子還元され,活性酸素種(ROS)であるO2–が生成することが明らかになっている。このROSが蓄積すると,PSIは酸化障害を被り光合成能力が低下する。
しかし近年,このROSの生成を抑制するための分子メカニズムが明らかとなってきた。乾燥や強光など,CO2同化反応効率が低下するようなストレス環境下では,PSIの反応中心クロロフィルであるP700が酸化状態で保たれることにより,ROS生成の場であるPSIでの還元力の蓄積を緩和していることが分かっている。研究グループはこのP700の酸化に着目し,作物のストレス状態を示すバイオマーカーとしての利用を試みた。
研究では,植物の12の必須元素の欠乏処理を一週間施したヒマワリを用い,クロロフィル蛍光およびP700吸光の非破壊的測定を行なった。定常光下でのP700酸化レベルが栄養欠乏により受ける影響を検証したところ,欠乏元素に応じて,従来観測されてきた負の相関関係に則るものと,その関係が成立しないものに大別することができた。これは,欠乏する元素によって光合成反応に異なる影響がもたらされることを示唆する。
そこで,欠乏元素ごとのより細かい症状を見出すべく,光合成パラメーターが最もダイナミックに変化する光照射誘導期に着目し,各栄養欠乏ストレスが及ぼす影響を検証した。その結果,12の必須元素の欠乏ストレスのそれぞれに特異的な特徴を見出すことができた。
この光合成パラメーターの測定は,元素欠乏処理から1週間後のまだ見た目の異常が少ない時に得られたもの。すなわち,見た目に大きな症状が出ていない早期段階でも,作物の栄養不足の症状を検知することができる診断法としての利用が期待される。また,幅広い作物種においても栄養状態を診断することができる可能性があるという。
研究グループはこの測定系を用い,より複雑な栄養条件である実際の農業環境で生育する作物の栄養診断に適応できるかどうか研究を進めるとともに,今回12種類の必須元素の欠乏が,なぜそのような光合成反応の応答を引き起こすのか,解析を進めていく必要があるとしている。