千葉大学の研究グループは,再生可能エネルギーの一つである光エネルギーによる有機物質の酸化反応の経路を詳しく観測し,アルデヒドを生成する条件と,メタンやCO2,水に光分解する条件を明らかにした(ニュースリリース)。
光触媒を用いた有機物質の酸化反応の詳細は不明であり,その制御は困難とされている。研究グループは最もよく用いられる銀ナノ粒子と酸化チタンから成る光触媒を使用し,アルコールが酸化されてアルデヒドが生成される反応と,アルデヒドからさらにメタンやCO2,水に分解される反応のそれぞれの経路の分かれ道を検討した。
まず,アルコールを光触媒に加えて紫外線と可視光線を照射した際には,銀ナノ粒子が404K(約130℃)に加温されながら,中間物質のアルデヒドを生成することを,は局所X線温度計を用いて発見した。一方,アルコールと酸素を光触媒に加え紫外線と可視光線を照射した場合は,酸化チタンで活性化された酸素種により,銀ナノ粒子の加温は363K(約90℃)に抑制されながらメタンやCO2,水に分解することが分かった。
アルコールのみを加えた光反応条件では,0.65nm径の銀ナノ粒子が集まっていくことで3.6nm径にまで結晶成長し,同時に温度が404Kに達した。この加温の原因は可視光線によるものであることが分かった。アルコールと酸素を1対2の圧力比で加えた光反応条件では,同様に0.65nm径の銀ナノ粒子が集まっていくことで3.1nm径にまで結晶成長したものの,加温は363Kに留まった。
このときに,酸素ガスによる銀ナノ粒子の酸化が生じていないことを確認した。銀ナノ粒子の表層が非常に薄い酸化銀で覆われて可視光線を遮ったのではなく,酸化チタンで活性化された酸素種が銀ナノ粒子表面に移行し,可視光線の吸収を弱めたと考えられるという。
これらのことから,アルコールから中間物質であるアルデヒドへの酸化は,紫外線による酸化チタンからに加え,可視光線による銀ナノ粒子でも進むことが分かった。さらに,アルコール中のC–C結合切断を伴うメタン,CO2生成には,363Kに加温された銀ナノ粒子と酸素活性化を担う酸化チタンとの協奏により進むことが明らかになった。
研究ではアルコールの光酸化反応の分かれ道が世界で初めて明らかになり,また光反応中の銀ナノ粒子が可視光線で温められ続けるものの,すぐに酸化チタン→反応容器の順に放熱し,熱平衡に達する様子が認められた。これらの反応過程は,光触媒による持続可能な反応条件を用いて様々な中間物質を選択的に取り出す際の指針となるとしている。