金沢工業大学と高知工科大学は,コントラストの印象を決める明暗情報を伝える輝度信号は,周りに鮮やかな色(彩度の高い色)を出すよりは,淡い色(彩度の低い色)を出す方が,より強く抑制されることを,世界で初めて示した(ニュースリリース)。
色あせた写真を見ると,写真全体で境界線の印象が弱い,つまりコントラストが低い印象を受ける。この現象は経験的には昔からよく知られていたが,写真の経年変化によって色が薄くなったのと同様に境界でのコントラストも下がった,などと考えられてきており,何故その様な見え方になるのかは明らかではなかった。
研究では,まず脳計測実験として,被験者13名の視野の中に複数の円形色刺激を呈示し,その色刺激の彩度を4段階に変化させて,刺激観察中の脳活動の大きさをfMRIを用いて計測した。
その結果,色刺激の彩度がクロマ値 /0(無彩色)のときに脳活動は最大となり,その他の3つの条件では彩度が小さい(淡い色)ほど脳活動も小さくなるという結果が得られた。
このとき,計測された脳活動に最も影響していると考えられたのは視野の大部分を占めている無彩色の輝度パターンであったため,研究グループは,淡い色が呈示されているときには輝度に対する脳活動が抑制されているのではないかと考えた。
確認のために背景の輝度パターンを取り払った黒背景の刺激を用いて同様の実験を行なったところ,彩度の違いによって脳活動に有意な差は見られず,淡い色が輝度に対する脳活動を抑制しているという説を裏付けた。
さらに,この脳活動の違いと知覚との対応を調べるために,おなじ円形の色刺激を呈示した状態でのコントラスト感度を,心理物理実験によって測定した。
脳計測実験に参加した被験者6名を含む10名での結果は,やはり淡い色(彩度がクロマ値 /2)を呈示した際,他の条件よりもコントラスト感度が有意に低下しており,淡い色が輝度に対応した脳活動を抑制するという説と一致した結果が得られた。
研究グループは,今回の実験では色刺激の彩度を一律に変えたが,今後,異なる彩度の色が同時に存在するより現実に近い場面でこの現象がどの様に働くかを調べ,実際のデザインへの応用を目指すとしている。