理化学研究所(理研)と広島大学は,大型放射光施設「SPring-8」の高輝度軟X線ビームを用いた「軟X線顕微分光法」によって,熱可塑性樹脂と熱硬化性エポキシ接着剤の接着界面における接着因子の可視化に成功した(ニュースリリース)。
接着界面に関するマクロな視点での知見はこれまでに多く蓄積されてきたが,接着強度に大きく影響する分子レベルでの接着メカニズムの理解は限定的であり,接着界面付近の物理的・化学的状態をマルチスケールで観察するための効果的な手法が望まれていた。
今回,研究グループは,試料表面における局所領域化学状態の分析に力を発揮する軟X線顕微分光法を用いて,炭素繊維強化プラスチックの母材として使用される熱可塑性樹脂のポリエーテルエーテルケトン(PEEK)と熱硬化性エポキシ樹脂であるビスフェノールA型エポキシ接着剤(DGEBA-DDS)接着界面における物理的・化学的状態の可視化に成功した。
この際,接合試料の表面を斜め研磨することで,接合界面を試料表面に拡大露出させた。研究では傾斜角2°の斜め研磨により,通常の厚さ数10nmの接着界面を30倍程度に拡大露出させて観察を行なった。
研究グループはさらなる知見を得るため,軟X線顕微鏡の高分解能化・高感度化に向けた新しい装置の開発を続けている。今回は接合界面を拡大するために斜め研磨という方法を採用したが,新装置では軟X線顕微鏡の高分解能化・高感度化により,接着界面をそのまま観察できるようになるという。
これにより,垂直断面試料の直接観察が高効率で行なえるようになれば,接着界面における接着因子に対する理解がさらに深まると期待できるとしている。