東京工業大学とスイス フリブール大学は,「環状分子のすり抜け」を巧みに利用した,力を可視化する新しい分子ツールを開発した(ニュースリリース)。
力に応答して色変化などのアウトプットを示す分子骨格をメカノフォアと呼ぶ。中でも,pN(ピコニュートン)オーダーの力に応じて,段階的に異なるメカニズムで発光特性変化を示す超分子メカノフォアは,材料内部の複雑な応力変化を可視化する上で有益となる。
研究グループでは,共有結合の切断を伴わずに蛍光特性が変化する「超分子メカノフォア」の開発に取り組んでいる。超分子メカノフォアでは,分子の集まり方を変化させることで蛍光特性変化につなげている。研究グループが最初に報告したロタキサンをモチーフとした超分子メカノフォアは,瞬時かつ可逆的な蛍光強度変化を達成した。
しかし,これまでに観察されていた可逆的な蛍光特性変化に加えて,不可逆的かつ永続的な蛍光特性変化という,相反する二つの特性を,同じ超分子メカノフォアから共有結合を切断することなく同時に発現させることは困難だった。
そこで研究グループは今回,ロタキサンを構成する環状構造と軸分子の末端にあるストッパー構造の大きさを巧みに調整することで,力によって環状構造がストッパーをすり抜けることを見いだした。
環状構造には蛍光団が,軸分子には消光団が導入されている。これにより,同じ分子骨格から共有結合を切断することなく,従来観察されていた瞬時かつ可逆的な蛍光のOn/Offスイッチのみならず,蛍光が消光状態から常にOn状態になる不可逆的な蛍光特性変化までも発現できることを明らかにした。このようなメカノフォアを用いれば,材料に印加される微小な力を多段階で評価できるようになる。
これまでに共有結合を切断することなく力に応じて蛍光特性が可逆的な変化から不可逆的な変化に切り替わるメカノフォアは報告されておらず,研究グループは,この研究成果は,pNオーダーの力を可視化するメカノフォアを創製するために,超分子化学で培われてきた手法を生かすことが一つの有効なアプローチであることを改めて示したものだとしている。