理化学研究所(理研)は,シリコン量子ドットデバイス中の電子スピンを用いて,3量子ビットの制御および量子もつれ状態の生成に成功した(ニュースリリース)。
量子コンピューターの動作には,量子もつれと呼ばれる複数量子ビット間の相関の制御が重要となる。シリコン量子ドット中の電子スピンを用いた量子ビットでは,この数年で2量子ビット間の量子もつれが実証された。しかし,量子誤り訂正など重要な量子アルゴリズムの実装に必要な3量子ビット以上の量子もつれの生成および検証は困難だった。
今回,研究グループは,シリコン量子ドット中に閉じ込めた三つの電子スピンを高い精度で完全に制御および測定にすることに成功した。量子ドット構造は,シリコンスピン量子コンピューターで一般的に用いられている,歪シリコン/シリコンゲルマニウムの量子井戸基板上に微細加工を施すことで作製した。
実験では,電極の先端直下に形成された三つの量子ドットに電子を一つずつ閉じ込め,それらの電子スピンを操作した。スピン状態を完全制御するには,1スピン操作に加えて隣接2スピン間のもつれ操作が必要となる。研究では,それをスピン間の交換結合の電気的制御によって実現した。
電子スピン共鳴は,スピンのゼーマンエネルギーに共鳴した実効的な交流磁場を加えることで発生させた。スピン状態を完全制御するには,1スピン操作に加えて隣接2スピン間のもつれ操作が必要となる。研究では,それをスピン間の交換結合の電気的制御によって実現した。最後に,1スピン操作と制御位相操作を組み合わせることによって,3量子ビットもつれ状態を生成した。
これにより,シリコン量子ドットデバイスで世界初となる3量子ビットもつれ状態の生成を実証した。量子状態の密度行列(ρexpt)を測定したところ,実験で得られた密度行列は,理想的な3量子ビット最大もつれ状態の密度行列(ρGHZ)と比較し,88%という高い状態忠実度が得られただけでなく,生成した状態が2量子ビット以下のもつれ状態やW状態に分解できない真のGHZ型の量子もつれであることが分かった。
研究グループは,この研究で確立した量子ビット列の制御,測定技術を応用することによって,シリコンスピン量子ビット系に特有の問題である磁気的・電気的雑音を考慮した量子アルゴリズムの最適化やその検証実験が可能になるとする。また,より大きな量子ビット列を用いることで,大規模量子コンピューターの実現に向けた研究開発の進展が期待できるとしている。