産業技術総合研究所(産総研)は,不揮発性メモリーMRAM用の単結晶記憶素子をシリコンLSIに集積化する製造プロセス技術を開発した(ニュースリリース)。
不揮発性メモリーMRAMは,酸化マグネシウム(MgO)トンネル障壁を用いた多結晶MTJ素子を多結晶の金属配線上に直接堆積することにより作製される。しかし,この技術では,多結晶MTJ素子の性能の不揃いや材料特性に起因して,MRAMの微細化が限界に達すると予想されており,その解決策として新材料を用いた単結晶MTJ素子およびその集積化技術が注目されている。
研究グループは今回,量産に適した3直径300mmの単結晶シリコンウエハー上に単結晶MTJ薄膜をエピタキシャル成長により堆積した。これまで単結晶MTJ薄膜は,小さな単結晶基板を用いた研究段階の技術であった。
研究グループは,この薄膜作製技術を発展させることにより,300mmウエハー上に単結晶MTJ薄膜を作製することに初めて成功し,量産へのめどをつけた。また,新材料を比較的自由に用いることができるエピタキシャル成長の利点を活かし,MgOに代わり,より高品質なスピネル酸化物MgAl2O4を用いたトンネル障壁層を作製した。
次に,単結晶MTJ薄膜ウエハーと別途用意したMRAM用LSIウエハーの直接ボンディングを行なった。ここで,産総研が独自に開発したタンタルキャップ層の表面平坦化技術を用いて原子レベルで平坦な薄膜表面を実現することにより,単結晶MTJ薄膜のウエハー直接ボンディングに初めて成功した。
シリコン剥離プロセスでは,独自に調合したアルカリ溶液を用いたウェットエッチングにより,単結晶MTJ薄膜に損傷を与えずに裏面シリコンウエハーを除去することに成功した。
つづいて,MTJ薄膜を微細加工して直径約25nmの円柱状のMTJ素子を形成した。最後に誘電体と上部の金属配線を作り込むことにより,ナノサイズの単結晶MTJ素子をSTT-MRAM用LSIに集積化することに初めて成功した。
さらに,このMTJ素子が結晶粒界が無い単結晶を維持していることを確認しするとともに,単結晶MTJ素子の性能の不揃いが,従来型の多結晶MTJ素子に比べて小さいことも確認した。
研究グループは今後,強磁性電極にも新材料を用いた単結晶MTJ素子を開発し,MRAMの超微細化や電圧駆動MRAMのための基盤技術として活用していくとともに,ジョセフソン接合の単結晶化と新材料の導入を行ない,長いデコヒーレンス時間を持つ量子ビットの開発を目指すとしている。