京都産業大学と東京大学は,アークトゥルスとしし座μ星の近赤外線波長域の高分散スペクトルから,マグネシウムやカルシウムなど6種類の原子による計191本の吸収線を新たに同定し,元素組成解析を実施し,近赤外線波長域における元素組成解析に適用できる様々な原子の吸収線のリストをまとめた(ニュースリリース)。
観測は,京都産業大学の研究プロジェクト「赤外線高分散ラボ」で開発した観測装置「近赤外線高分散分光器WINERED(ワインレッド)」を京都産業大学神山天文台の荒木望遠鏡(口径1.3m)に搭載し,2013年2月に行なった。
今回観測した2つの恒星はK型巨星に分類され,表面温度が4300~4500度程度と低く,多くの種類の吸収線が見られることが特徴であるため,原子吸収線のリストの作成には適している。また,これらの恒星は,過去の可視光域での観測から元素組成が得られており,赤外線波長による観測で元素組成の測定手法を確立するのにも適している。
WINEREDで取得した2つの恒星の高分散スペクトルから,スペクトル中に数多くの原子吸収線が確認することができた。また,今回観測した2つの天体は金属量が大きく異なることが知られており,これらの恒星のスペクトルを比較することで,吸収線の同定精度を高めることに成功した。
スペクトルデータを詳細に解析した結果,Mg(マグネシウム),Si(シリコン),Ca(カルシウム),Ti(チタン),Cr(クロム),Ni(ニッケル)の6元素の吸収線を新たに191本同定したことに加え,Kondo et al. 2019で同定されていた107本のFeの吸収線と合わせて298本の原子吸収線をリストにまとめた。
これらのリストを用いて,それぞれの恒星について元素組成を求めたところ,過去の可視光観測による文献値と誤差範囲で合致することが確認できたという。
今回観測した赤外線波長は可視光と比べて透過率が高いという利点がある。研究グループは今後,今回確立した恒星の元素組成の測定手法を様々な恒星,特に可視光では観測の難しいガスや塵の多い銀河系中心方向の恒星へ適用することで,銀河系の化学進化に関する新たな知見がもたらされるとしている。