東大ら,ナノ構造で高感度にキラル分子を構造解析

東京大学大学は,シリコンでできたナノ構造を持つ「シリコンナノディスクアレイ」を用いたキラリティーを敏感に検出可能な新しい分光計測法を開発した(ニュースリリース)。

1970年代に実証された水溶液中のキラル分子の構造を解析する手法「ラマン光学活性(ROA)分光法」は,水溶液中のキラル分子のねじれ構造や挙動の研究に有効であり,X線結晶構造解析法や核磁気共鳴(NMR)分光法に比べて簡便さ(サンプル準備の手間,コスト面など)で有利となる。

しかし,ROA分光法の信号は,キラル分子における光と物質の相互作用が微弱であるため,原理的にラマン分光法のラマン信号よりも3~5桁弱くなってしまう。金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴(LSPR)がROA信号を増強するために採用されているが,ROA信号のアーチファクトに悩まされている。具体的にはLSPRによる光熱発生と,遠方場から近接場への光学キラリティーの効率的な伝達と増強ができないという二つの問題点があった。

研究では,これらの難問を解決するために,シリコンでできたナノ構造を持つプレート,シリコンナノディスクアレイを開発し,そのダークモードを利用することで,全誘電体のキラル場増強ROAを実証した。ダークモードとは,電気双極子とトロイダル双極子(ドーナツのような形の磁場によって誘起された双極子)の組み合わせであり,遠方場ではこれらの双極子が部分的に破壊的な干渉を起こすもの。

具体的には,光学的に等方性のシリコンナノディスクアレイを設計し,チップ上に作製した。これにより,信号取得時間中に近接場での光学キラリティーを正確に調整することができ,強化されたROA分光測定にアーチファクトが入ることを回避することができた。

シリコンナノディスクアレイの物理的な利点に加えて,その製造プロセスは半導体生産と同じ装置を用いており,他のオンチップデバイスとの併用や,キラル測定のための大量生産にも適用できるという。

この手法の実用性を示すために,化学的および生物学的な鏡像異性体のペアである(±)-α-ピネンと(±)-酒石酸のROA分光測定を実施したところ、ごくわずかなアーチファクトを伴う2相の仮想エナンチオマーROA光学系において,近接場でのROA信号の増強効果は約100倍だった。

この手法は,X線結晶構造解析法やNMR分光法では不可能な,微量のキラル分子の絶対構造解析を,簡便・迅速・安価・安定的に行なうことができるもの。また,分析化学,構造生物学,物質科学,薬学,量子生命科学などの多様な分野での応用が期待されるとしている。

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