ニコンと東北大学は,水に安定的に分散するITOナノ粒子を独自に開発し,環境への負荷が低い成膜方法である「ミストデポジション法」による透明導電性薄膜の製造に成功した(ニュースリリース)。
プリンタブルエレクトロニクスの分野では,ITOを大気環境下で低温成膜することが難しいため,代替材料としてAgナノワイヤーなどの開発・利用が検討されている。しかしながら,貴金属を用いるため高価であることやエレクトロマイグレーションなどによる劣化が課題となっている。
研究グループは,ナノ粒子の形状制御に着目することで,高水分散性ITOナノ粒子の開発に成功した。具体的には,ソルボサーマル合成法において表面に突起形状を設ける粒子設計を行なうことで,粒子の親水性を向上させることに成功し,従来品と比べて長期間安定して分散することを確認した。
この成果により,ITOナノ粒子を原料とした塗布溶液は,有機溶剤や界面活性剤などの高温処理や高抵抗率化の原因となる添加物を加える必要がなく,水系のインクを作製することが可能になった。
このため,従来の粒子では必要であった高温での溶剤や界面活性剤除去が不要であり,一般的な樹脂フィルムが利用できる150℃以下の低温でかつ大気圧下において低抵抗な透明導電膜を得ることが出来るという。
大気圧成膜法の一つであるミストデポジション法と組み合わせることにより,PEN基板上に150℃という低温で比抵抗9.0×10-3Ω・cmの膜を得ることが出来た。ミストデポジション法とは,数MHzの超音波を原料溶液に印加することによって霧化させ,生成したミスト状の原料をガスにより搬送する気液混合プロセスの成膜法。
PENフィルム上に成膜したナノ粒子膜の断面観察結果より,突起形状を有するITOナノ粒子膜は,その分散性と形態的な特徴によって稠密に配置していることを確認した。
これらの特徴より,界面活性剤を含む市販品のITOナノ粒子膜に対して3桁,東北大学開発の従来粒子膜に比較して1桁程度低い抵抗値となり,ナノ粒子インクを用いて成膜したITO薄膜としては現時点で最も低抵抗なITO膜となり,真空成膜法での薄膜に迫る値となるという。
研究グループはこの発表について,「Roll to Roll」工法の実現に近づく大きな成果だとしている。