新潟大学の研究グループは,オプティカルフローという画像解析技術を利用することで,再生医療に培養される口腔粘膜上皮細胞の運動能(平均移動速度)が細胞の増殖能と相関することに加え,口腔粘膜上皮への分化能を予測する指標となることを突き止め,非侵襲的に細胞を評価する技術を開発した(ニュースリリース)。
常に変化し,均質ではない再⽣医療⽤細胞を的確に評価するためには,細胞の⽣物学的特性を把握し,その特性と相関した指標を⽤いて,製造⼯程中や最終製品の品質を評価することが重要であり,その品質管理は,無菌的,リアルタイム,⾮侵襲的であることが必須要件となる。
こうした製造⼯程管理や最終品質評価の⽬的で,近年盛んに画像解析技術が導⼊されている。しかし,これまで多くの臨床実績が報告されている⼝腔粘膜上⽪細胞ではこのようなツールが未開発だった。そこで研究グループは,画像解析のみから判定可能な細胞品質評価システムの開発を⽬指した。
研究グループの細胞培養環境下では,⼝腔粘膜上⽪細胞のコロニー形成が緩く,コロニーの境界が不明瞭なため,コロニー形態という静⽌画像指標ではなく,タイムラプス顕微鏡撮影画像をつなぎあわせた動画で細胞挙動を解析することにした。
そこでは画像(動画)内の細胞を認識するために,オプティカルフローという,2枚の画像から観察対象の移動を推測するアルゴリズムを利⽤した。
このアルゴリズムを⽤いることで培養細胞の挙動,すなわち細胞の移動速度(運動能)に関する情報を定量的な数値に置き換えることができる。そして,培養⼝腔粘膜上⽪細胞を再⽣医療に⽤いるうえで基本的な特性である細胞増殖能を,運動能という指標を⽤いて評価したところ,相関関係があることを⾒出した。
つまり,細胞を傷つけることなく,熟練者の主観的⽬利きに頼らず,細胞の製造⼯程に関わる細胞増殖能は,運動能を指標とすることで客観的,定量的に評価できることが明らかになったとする。
さらに,細胞運動能という指標が⼝腔粘膜上⽪の再⽣能を予測できる指標にならないかについて検証するため、わざと細胞増殖にとって不利な環境(栄養不⾜)を作り解析した。その結果,栄養不⾜で培養した細胞が再⽣した上⽪は貧弱であったことから,運動能という指標は上⽪細胞の再⽣能も予測可能である指標であることを⽴証した。
この⼿法は,リアルタイムでの細胞モニタリングや,容器内の全⾯検査(評価)も可能にする技術であり,他の種類の細胞への適応拡⼤や品質管理への展開が可能だとしている。