筑波大学の研究グループは,ムカデの寄生虫に,葉緑体内部で働く酵素の塩基配列を発見した(ニュースリリース)。
マラリア原虫やトキソプラズマ原虫などのアピコンプレクサ門に属する病原寄生虫は,葉緑体を持ち,光合成を行なっていた藻類の仲間から進化したと考えられている。
実際,アピコンプレクサ門寄生虫の多くは,その細胞内に,光合成能を欠失した痕跡的葉緑体を持っている。無脊椎動物に感染するグレガリナもアピコンプレクサ門に属し,痕跡的葉緑体を持つ可能性が指摘されていた。しかし,実験室内での培養ができないため,ゲノムの解析が難しく,その葉緑体進化はよく分かっていまかった。
研究では,筑波大学構内にてセスジアカムカデ,⻑野県にてキシャヤスデ,パラオ共和国にてヤケヤスデを採取し,それぞれの消化管中からグレガリナを単離してデータを取得した。これを用いて,系統的位置を高精度に推測するための大規模分子系統解析と,葉緑体内部で機能すると考えられる酵素の探索を行なった。
その結果,ムカデ寄生グレガリナのデータ中に,葉緑体内部で働く酵素の塩基配列を発見した。一方,2種のヤスデ寄生グレガリナからは,葉緑体機能に関わる酵素の塩基配列は一切検出されまなかった。
また,大規模分子系統解析では,痕跡的葉緑体が残存する複数のグレガリナ系統が,葉緑体構造が欠失したと考えられる系統の中で,バラバラに位置した。このことから,グレガリナの進化過程において痕跡的葉緑体の欠失は,独立に複数回(少なくとも3回)起こったことが示唆された。
これまでに大規模遺伝子配列データが取得されたグレガリナの多くは,海産無脊椎動物を宿主としており,自然環境中に棲息するグレガリナのごく一部でしかない。そのため,今回の研究のように,陸生無脊椎動物を宿主とするグレガリナを対象とする研究が必要とされるという。
研究グループでは,今後,さまざまなグレガリナについて,系統関係と痕跡的葉緑体に関するデータが蓄積されれば,グレガリナとグレガリナを含むアピコンプレクサ門における複雑な葉緑体の進化を,より正確に推測することが可能になるとしている。