東大ら,宇宙線の起源「ペバトロン」の証拠を観測

東京大学,中国科学院高能物理研究所などは,中国のチベット自治区に建設された空気シャワー観測装置による観測で,銀河系最強の天体「ペバトロン」が,過去または現在に存在するという初めての決定的な証拠を得た(ニュースリリース)。

宇宙から降り注ぐ陽子を主成分とする高エネルギー放射線「宇宙線」のうち,数ペタ電子ボルト以下の宇宙線は,我々の住む銀河系内で生成されていると考えられてきたが,1ペタ電子ボルトを超える宇宙線を生成できるような強力な天体「ペバトロン」の決定的な証拠は見つかっていなかった。

チベットASγ実験は,標高4,300mの高原に597台の粒子検出器を65,000m2の領域に配置し,宇宙空間から降り注ぐ高エネルギー宇宙線の観測を行なっている。高エネルギーのガンマ線(または宇宙線)は,大気上層の窒素原子核などと衝突して多数の粒子を生み,それがさらに衝突を繰り返してシャワー状に粒子が降り注ぐ「空気シャワー」を引き起こす。

この空気シャワー中の粒子を,多数の粒子検出器を碁盤の目状に配置したチベット空気シャワーアレイと呼ばれる装置で観測し,元のガンマ線の持つエネルギーと到来方向を決定することができる。

ミュー粒子の数を計測することでガンマ線と雑音である宇宙線を高精度で選別できるため,空気シャワー中のミュー粒子以外のほとんどの粒子が遮断される地下に水チェレンコフ型ミューオン検出器を設置した。この検出器の面積は世界最大の3400m2で,水深1.5mのプール中に直径50cmの光電子増倍管を取り付けた構造になっている。これは,スーパーカミオカンデの技術を応用したもので,安価で低雑音なミュー粒子観測装置を実現した。

研究では,ミュー粒子検出器を用いて,宇宙線雑音を100万分の1に減らすことに初めて成功した。これにより,天の川方向に沿ってガンマ線が集中する様子を観測した。ガンマ線のエネルギーは最大で約1ペタ電子ボルトに達し,人類史上最も高いエネルギーのガンマ線の観測に成功した。観測されたガンマ線は天の川の方向に空間的に広がって分布していた。

こ結果は「電子」ではなく宇宙線「陽子」が銀河系内で高エネルギー領域まで加速されている証拠で,「ペバトロン」が過去または現在に存在することを示す決定的な証拠だという。さらに,高エネルギー宇宙線が数百万年以上の間,銀河系内の磁場によって閉じ込められ宇宙線のプールを形成し,地球に伝搬しているという60年前から考えられてきた理論モデルを初めて実験的に検証したことも意味するとしている。

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