東京理科大学と大阪市立大学は,機械学習を組み入れた近赤外線ハイパースペクトルイメージング(HSI)を活用し,マウスの肝臓中の脂質濃度を可視化する手法を開発した(ニュースリリース)。
肝臓組織における過剰な脂質の蓄積は非アルコール性脂肪性肝疾患の特徴とされており,脂質分布と肝疾患の間には密接な関係があることが明らかになりつつある。肝臓における脂質分布は,脂肪肝と脂肪肝に関連した肝炎や肝がんの重症度を診断する重要な手がかりにもなる。そのため,脂質分布を非侵襲・非標識で定量的に計測できるモダリティの開発が求められている。
ハイパースペクトルイメージングは非侵襲・非接触・非イオン化・非標識であることから,近年医療分野で注目を集めている。医療分野におけるハイパースペクトルイメージングでは,血管の可視化やがんの検出,腹腔鏡手術のガイドなどで近赤外光(>700nm)が使用される。
こうした近赤外線ハイパースペクトルイメージングと機械学習を組み合わせることにより,脂質の検出が可能であることが示されつつあるが,肝臓についての知見は少なかった。そこで研究グループは,摘出したマウスの肝臓を対象に,近赤外線ハイパースペクトルイメージングと機械学習を活用して脂質の定量的な可視化を行なった。
研究グループはまず,標準的な食餌を与えたマウス群と,高脂肪食を与えた群に分けた。高脂肪食群はさらに食餌の材料の配合の違いによって3つの群に分けた。そして脱血したマウスから肝臓を摘出し,約3mmの厚みの切片を作成し,近赤外線ハイパースペクトルイメージングで画像を取得した。その結果,脂質含量の変化は近赤外線吸収スペクトルに顕著な影響を与えた。
次に,得られた画像のスペクトル域1000-1600nmを,部分的最小二乗回帰(PLSR)とサポートベクトル回帰(SVR)の両方で解析した。実際の脂質含量は,同じサンプルを用いて Folch法による脂質抽出を行ない,計測した。
その結果,前処理として標準正規変量(SNV)変換を行なったSVRでは決定係数は 0.97,平均絶対誤差は10.9mg/g(8.5%)と,PLSRよりも優れた結果を示した。さらに,SVR分析に基づくカラーマッピングも行なった結果,それぞれの肝臓サンプルにおいて脂質は不均一に分布していることが示唆された。
これらの結果は,近赤外線ハイパースペクトルイメージングは生体外における脂質含量を調べる有望なアプローチであることを示すという。このイメージング技術は肝臓における脂質の分布を非侵襲に調べることができる新たな手法になり,非アルコール性脂肪性肝疾患の診断を進歩させると同時に,脂肪肝の発病機序の理解にもつながるとしている。