岡山大学,筑波大学,理化学研究所は,クライオ電子顕微鏡を用いて,シアノバクテリア由来光化学系IIの構造を1.95Åの解像度で高精度に決定した(ニュースリリース)。
光化学系IIは生物にとって極めて重要なタンパク質であるために古くから研究されており,その構造はX線を利用した結晶構造解析により高解像度で解析されている。
しかし,結晶構造解析法ではタンパク質を結晶という特殊な状態にしなければならず,その状態では水を分解する反応の効率は低下することが報告されていた。また,結晶状態の構造が溶液の構造と同じであるかどうかも不明だった。
研究グループは,シアノバクテリアから高純度の光化学系IIを精製し,クライオ電子顕微鏡装置で観察することにより,1.95Åの解像度で立体構造を解明した。これまでにX線結晶構造解析で決定された光化学系IIの構造の最高解像度が1.90Åなので,ほぼ同じ精度の構造を決定することができた。これは,使用したクライオ電子顕微鏡の冷陰極電界放射型電子銃から発生する干渉性の高い電子ビームを活用した結果。
しかしながら,クライオ電顕観察の際に一般的に用いられる電子線量で観察したにもかかわらず,光化学系IIの一部の領域に電子線による損傷が見られた。そこで段階的に電子線量を変えて構造解析することで,電子線による損傷を大幅に減少させ,尚且つ,高い精度を保った構造(2.08Åの解像度)が得られた。
この構造はこれまでに報告されていたX線による結晶構造と類似していたが,結晶構造では一部しか確認されていなかったPsbYというサブユニットを完全な状態で確認することができた。これはクライオ電顕で決定された構造が,より生体内に近い状態を反映しているということを示しているという。
シアノバクテリア,藻類,植物などによる光合成のメカニズムを解明することは,人工光合成によるエネルギー生産技術の基礎となり,環境問題やエネルギー問題を解決する可能性があるため,世界中で注目されている。研究グループは,今回の研究成果によって,太陽光エネルギー有効利用のための技術開発に重要な知見を与えると期待している。
また,クライオ電顕による構造解析では,電子線による試料への損傷が問題になるが,今回の成果は,電子線損傷のない状態での構造決定の指標にもなる。