東大ら,薄膜中ナノ1粒子の動きを初めて検出

東京大学,産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ,高輝度光科学研究センターは,X線光化学反応中に急速に変化するハロゲン化銀,および生成された金属銀の結晶1粒子の超微細構造の動的変化(ダイナミクス)を測定することに成功した(ニュースリリース)。

多結晶材料の構造は,数百万個の粒子集合体として,その平均的な性質をX線回折測定により調べられてきたが,この方法では個々の結晶1粒子の動態,格子構造変化などを調べることができなかった。

そこで研究グループは,2018年に回折X線ブリンキング法(Diffracted X-ray Blinking: DXB)を開発し,タンパク質1分子内部の微細運動変化を検出することに成功した。DXB法の適用はこれまでは生体分子のみが対象だったが,今回ではじめて,無機分子多結晶材料への適用が可能であることを明らかとした。

DXB計測では,機能発現に伴った材料物質の動的構造変化を「無標識」で取得できる。今回はX線をマイクロメートルサイズに集光し,熱処理前後のハロゲン化銀1粒子(直径~100 nm)の動態を50ミリ秒で時分割測定し,この状態でDXB計測を実施すると,ハロゲン化銀および光化学反応によって生じる金属銀の回折輝点が,明滅している様子が観測できた。

その結果,X線回折輝点の動きが個々の結晶粒子の傾斜(倒れこみ)運動・回転運動、格子構造変化を表すことがわかった。これら物理特性を反映した回折強度の時間変化について,独自に考案した1ピクセル(画素)自己相関解析法(sp-ACF,X線回折像1ピクセルごとに自己相関解析を実施し,算出されたsp-ACF曲線から減衰定数を抽出する手法)による粒子運動分析を行なった。

その結果,熱処理前後のハロゲン化銀,および金属銀において,明確な運動の差を検出したという。これにより,多結晶材料の局所的構造ダイナミクスを特徴づける新しい計測手法を実現した。

また,DXB法は,大型放射光施設のX線による測定のみならず,研究室レベルの小型X線光源を利用した計測も可能だという。小型X線光源を利用することで,例えば,ダメージレス測定,長時間測定,計測条件や試料選定といったスクリーニング的測定など,多様なニーズに合わせた測定ができる。

研究グループは今後,さまざまな結晶材料系を対象として,温度,電圧,圧力などの物理応答に対する評価技術開発をルーチン的に測定できる技術開発を進め,「結晶動態」という新しい材料設計の指針を提供していくとしている。

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