東京工業大学と東京大学は,機能性フィルムの簡便な表面ひずみ計測法を開発した(ニュースリリース)。
フレキシブル電子デバイスはフレキシブルフィルム上に導電材料を構築することで作製される。デバイスが曲がるとフィルム表面は大きくひずむ(フィルムの外側は膨張し,内側は収縮する)。この表面ひずみが導電材料の限界を超えると,フレキシブルデバイスは壊れる。金属は1~3%のひずみで,半導体は1~2%のひずみで破壊する。
一般的なフィルムの表面ひずみは厚さに比例するため,フィルムを10µm以下の厚さにすることによって,表面ひずみをできるだけ小さくし,埋め込み可能なインプランタブルや身に着けることが可能なウェアラブル用途に向けたフレキシブルデバイスが開発されてきた。
しかし,曲がるスマートフォンやタブレットなどのフォルダブルデバイスの開発を指向した場合,フィルムを超薄膜化する手段はデバイスの使いやすさの点から難しい。表面ひずみが小さく,ある程度の厚さ(100µm以上)をもつフィルムが求められているが,フレキシブルフィルムの表面ひずみ計測法は提案されていなかった。
研究グループは,大きく曲がるフィルムの表面ひずみを簡便に定量計測できる手法「表面ラベルグレーティング法」を開発した。回折格子を持つラベルをフィルム表面に貼り付け,レーザー光を入射すると光が回折する。フィルムを曲げながら,回折角を計測することによりフィルムの表面ひずみを高精度に計測できる。
表面が滑らかであれば,原理的に対象物を問わない。研究グループでは,プラスチックだけでなく,ガラスや異種物質を積み重ねた積層フィルムの表面ひずみの計測にも成功し,汎用性の高い手法であることを確認した。
この計測法は0.01%以下の表面ひずみを高精度に計測でき,スマートフォンの保護フィルムに使用されるハードコートフィルムが1.45%の表面ひずみで割れることを明らかにした。この指標をもとに,二枚のフィルムで,柔軟なフィルムをサンドイッチした三層構造をもつフィルムを設計し,曲げても割れないハードコートフィルムの開発に成功した。
三層フィルムは200µmの厚さをもち,フレキシブルデバイスに使用される通常のフィルムよりも数倍厚いが,表面ひずみは60%程度小さい。東京大学の半導体転写技術を応用して,三層フィルム上に有機トランジスタを構築したところ,開発したフレキシブルトランジスタは曲げてもデバイス機能がほとんど低下しなかった。
研究グループは,これまでの勘と経験に頼った素材開発から脱却し,明確な定量指標のもと材料設計が可能となるとしている。