電気通信大学は,希土類添加中間バンド太陽電池において,希土類発光中心のエネルギー移動機構に由来するラチェット中間バンド効果を介した2段階光吸収に成功し,脱炭素に向けた次世代エネルギー変換技術に新たな道を開拓した(ニュースリリース)。
中間バンド太陽電池は63.2%の理論変換効率を有し,量子ドット超格子,中間バンド太陽電池をはじめとして盛んに研究されている。一方,現在の量子ドット超格子中間バンド太陽電池の最高変換効率は29.6%にとどまり,理論変換効率より遥かに低い値にとどまっている。
中間バンド太陽電池の高効率化を阻害するのは,中間バンドに励起された光キャリアのライフタイム(寿命)が短いことが最大の要因とされている。中間バンドキャリアを長寿命化する主たる手法は,光キャリアである電子と正孔を空間的に分離する原理に基づいている。
その中で近年,理論上,正孔と電子を空間的に最も分離できる長寿命ラチェット型中間バンドの研究が注目されている。ただし,これまでの報告は原理検証にとどまり,長寿命ラチェットバンドは実現されていなかった。
今回研究グループは,ミリ秒ライフタイムを持つ希土類発光中心に着目し,広く知られている希土類発光中心に特有のエネルギー移動機構を制御した長寿命ラチェットバンドを実現し,その2段階光吸収の観測に成功した。
本来,希土類発光中心におけるエネルギー移動機構は温度消光や光消光などで発光に不利な働きをするため抑制の対象だが,この研究はそれに反して’不利’な働きを’有利’に活用し,希土類発光に新たな設計指針を与えることが期待されるという。
また希土類発光中心を経由する光アップコンバージョン励起効果についても,今回の研究結果から第1・2段階の光吸収を自在にチューニング・制御できるため,従来のアップコンバージョンデバイスの開発を大きく補完する役割が期待されるとしている。